クリエイティブな人たちに
「最高品質のものを作りたい」と思わせるには?

――2016年に新しい未来のテレビ「ABEMA」を開局されました。かつてのマスメディアには「特等席」があったように思います。テレビ局には「電波」という参入障壁があり、出版社には「コンビニや書店の棚」という物理的な優位性がありましたが、ABEMAにはそれがありません。特等席を取りたいとは思わなかったのでしょうか。

藤田 現在のビジネス環境は、特等席を取れば勝てると思う発想から変化しています。例えばNetflixは、見たら分かるとおり特等席に座らずとも成功しています。やはり本質的には一番いいものを作ればそこに視聴者は集まり、二番手以下だと厳しいという世界なんです。

「ABEMA」のコンテンツ制作やプロダクト開発においては「世界最高品質」であるか、「唯一無二」であるか、そのどちらかでないと生き残れないと社内で言っています。

――藤田さんはマネジメント側ですが、どうやってクリエイティブな人たちに最高の品質のものを作りたいと思わせるのでしょうか。

藤田 やはりカルチャー(企業文化)によるものが大きいと思います。当社の子会社であるCygamesが提供するスマートフォンゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」は空前のヒットを記録し、アニメも含め国内のみならず海外でも高い評価を得ています。

 Cygamesはそれまでに出した作品も含め、非常に高いクオリティーのゲームを提供し続けており、Cygamesがグループ会社にいることで、あのレベルの作品でないと世に出せないと社内の目線が引き上がりました。これはゲームに限ったことではありません。

 クリエイティブの評価は主観になりやすいため、品質基準についての判断をぶらさないためにも「このレベルより下の作品は出せない」という基準がしっかり社風として定着していることが大切です。

「ABEMA」では2023年にNetflixと提携し、「ABEMA」が制作したオリジナルコンテンツをNetflixで配信しています。この提携の目的は、Netflixの世界ランキングで上位に食い込むような作品を作るんだという社内の意識改革にありました。

クリエイティブなものに対して
良し悪しを規定するのはすごく難しい

――その仕組みさえ作ればうまくいくのでしょうか。

藤田 視点を高く持つことが重要なのですが、キャスティング一つとっても妥協してしまいがちです。作り手からしても、自分の作品に対してダメ出しをされるのはつらいことですし、上司からしても、クリエイティブなものに対して何が良いのかダメなのかを規定するのはすごく難しい。