検討会の委員たちは
内部補助の拡大に否定的

 鉄道においてもさまざまな路線でひとつのネットワークを構成している以上、路線単体ではなく、ネットワーク全体の収支で考えるべきというのが内部補助論だ。だが、どこまでが適正な内部補助か明確な基準がなかったため、黒字路線で支え切れないほど赤字が増えた国鉄は破綻を迎えた。

 そこで国鉄民営化にあたっては、輸送密度4000人/日以下の路線をバス輸送が適当な「特定地方交通線」として分類し、代替交通が無いなどの除外規定に当てはまる路線を除き、廃止・経営分離。JRが継承した路線は、内部補助で維持していくことになった。

 この方針はJR東日本が完全民営化した2001年の大臣指針でも、「現に営業する路線の適切な維持に努めるものとする」「路線の全部又は一部を廃止しようとするときは、国鉄改革の実施後の輸送需要の動向その他の新たな事情の変化を関係地方公共団体及び利害関係人に対して十分に説明するものとする」として改めて確認されている。

 JRとしては、コロナ禍や人口減少で収支が悪化したからといって、安易に破るわけにはいかない「公約」だが、国鉄民営化から38年、大臣指針からも四半世紀が経過しており、自動車の普及、高速道路網の整備、地方の人口減少など「ユニバーサルサービスとしての鉄道」のあり方は大きく変わっている。

 JR東日本はヒアリングで、大臣指針をふまえて路線の適切な維持に努めているとしつつも、「会社発足以降、鉄道事業の収入・コスト構造が大きく変化し、内部補助の規模も拡大している」と指摘。「内部補助についてすべて否定するものではないが、過度な内部補助は、本来高品質なサービスを提供するべきご利用の多い線区に対する公平性の観点からも問題である」と問題提起した。

 これに対して地方は徹底抗戦の構えだ。検討会に先立ち、8月26日に開催された国と地方の意見交換会では、湯崎英彦広島県知事(当時)が「(JRが勝手に廃線しないよう)国として必要と考える鉄道ネットワークの範囲及びその考え方を示してほしい」「JR西の利益は大幅に増加している。JRの内部補助の考え方を確認してほしい」などと発言し、JR側をけん制した。

 一方、検討会の委員は内部補助の拡大に否定的だ。第1回検討会で流通経済大学の板谷和也教授は「国鉄の分割民営化までは、数少ない黒字路線における黒字分を、全国の赤字ローカル線に回すことで維持をしていたものの、その中で、黒字路線に対する投資やスピードアップがなかなかできていなかったというのが実態」と述べた。

 これを解決するために地域で分割し、内部補助の対象を減らした経緯があるにもかかわらず、「内部補助でずっと経営をしていかなければならないようなご発言が多く見受けられるというのは、経済学の論理から見て疑問」と批判する。

 さらに「当時なら特定地方交通線に設定されるような水準にある路線が、現在全国に点在していますが、こうした路線を維持しているために、JR各社が過度な内部補助に陥ってしまって、全体として最適な鉄道ネットワークの維持ができなくなり、さらにサービス向上のための投資が実現できなくなることが懸念されます」と踏み込んだ。

 また、竹内座長も「内部補助を求めるのなら、それをするだけの理屈をきちんとつけて説明することが必要です。根拠を示さずに、『お前のところは儲かっているから持ってこい』というのはおかしな話ですから、そこの合理性と言いますか、説明責任をつけるということが、大事ではないかと思います」との見解を示した。