住宅ローンは単純計算で約4500億円増
負担が増える人と減る人の違いは?

 25年10月まで3年半の間、わが国のインフレ率は物価安定目標の2%を上回った。24年3月から今回まで、日銀は4回の利上げなど金融政策の正常化を進めた。それは、“金利のない”非常事態の政策を、正常に戻すプロセスだ。それに呼応し、わが国の政策金利はプラスに浮上し、国債の流通利回りも上昇した。

 今回の利上げで、わが国は一段と金利のある世界に回帰する方向に向かっている。それに伴い、経済のさまざまなところで影響が顕在化しつつある。まず、預金の金利の上昇だ。大手行は普通預金を0.2%から0.3%に引き上げた。一部の銀行では、約33年ぶりの預金金利水準である。

 住宅ローン利用者の約8割が使う変動型金利の指標、短期プライムレート(短プラ)も上昇した。一部の大手行は、短プラをこれまでの1.875%から2.125%(いずれも年率)に引き上げる。

 住宅金融支援機構によると、24年度末、わが国の住宅ローン残高は227兆1743億円だった。この内、約80%(181兆7394億円)が変動金利型の住宅ローンであるとすると、その影響は小さくないことが分かる。金融機関ごと金利引き上げ幅などの影響はあるが、単純計算で、経済全体で変動金利型住宅ローンの金利支払い負担は、約4500億円増えることになる。住宅ローンの返済負担が増えるのに備えて、支出を見直す人が増えるだろう。

 また、民間企業も借入金利の上昇に対する警戒感は高めている。日銀による利上げによって、自社にマイナス影響があると考える企業は多い。特に、借入額が相対的に大きい不動産部門などで、返済負担が増えることへの警戒感は強いとみられる。

 金利がある世界に戻ることで、債権者から債務者への所得移転は徐々に解消される。預金の金利が上昇すれば、「利息を受け取る楽しみが増える」という人もいる。経済全体で見ると、住宅ローンを抱える30~50代の現役世代は、負担が増える可能性が高い。それに対して、預金などの金融資産の蓄積の大きい60代以降の世代は負担が減ることも考えられる。