高市政権で国債費は初の30兆円へ
実質金利は依然としてマイナス

 わが国で、最大の債務者は政府である。金利のない環境下、政府は国債を発行し経済対策を実施しやすかった。ところが、金利がある世界では、政府の国債費は累増する。26年度予算(概算要求)で国債費は前年度比15%増、初めて30兆円台に乗る見通しだ。

 しかも、高市早苗政権は、総合経済対策や減税の財源の多くを、国債の発行増で賄おうとしている。高市政権発足後、わが国の国債流通市場では財政悪化の懸念が追加的に上昇している。それは、「悪い」金利上昇につながった。

 発行年限にもよるが、政府がさらに国債を増発すれば国債の需給バランスは悪化し、金利上昇リスクは高まるだろう。その中で、日銀がさらなる利上げを行うことは、必ずしも簡単ではない。政府がアコード(政策協定)に従って、日銀に対してより慎重な金融政策運営を求める可能性もある。

 物価や為替の動向も、日銀の金融政策を難しくするだろう。19日以降、円安が加速している。追加利上げ後も、わが国の実質金利は依然としてマイナスだ。植田総裁は会見で26年の追加利上げ方針を示唆したが、どの程度の利上げが必要かは示さなかった。市場参加者は日銀の姿勢を消極的と受け取っただろう。

 それとは対照的に、米欧では利下げの一時休止論が浮上している。わが国では、人件費の増加が物価押し上げ要因になっている。円安による輸入物価の上昇もインフレ加速の要因になる。状況次第で実質金利のマイナス幅は拡大し、円売り圧力が追加的に高まる懸念も残る。

 米国は、わが国の金融政策を注視している。スコット・ベッセント米財務長官は、日銀の対応が後手に回った影響が、円の下落だけでなく海外金利の変動に波及したと指摘した。ベッセント氏は、日銀が適切な金融政策を継続することが、「為替介入」容認の条件とも取れる発言をしている。米国の「ドル高是正」意欲は強いとみられる。

 24年3月以降、日銀は、単純平均すると6カ月に1度のペースで利上げを行っている。それでも、物価上昇に歯止めはかかっていない。財政悪化リスクの上昇、物価の高止まり、米国からの要請――日銀の金融政策は難しいかじ取りを迫られている。

真壁昭夫・多摩大学特別招聘教授のプロフィール