加えてもう1つのポイントは、「人の話に耳を傾ける」姿勢だったと思います。

 自分自身のことって、自分が一番わかっているようで、わかっていないことが多いもの。自分はこれに向いていると思っても、周りからみたら全然違うことに向いているということが多々あります。

 そんなアドバイスを受けたとき、すぐに真に受けるのではなく、真剣に受け止めてじっくり吟味してみる。その結果「そうかもしれない」と思ったら、アドバイスに従う姿勢が大切だと思うのです。

過去の経験はクジラと同じ
すべてを人生に活かせる

 先ほど話した藝大志望の知り合いのほかにも、「ミュージシャンを目指して夜のバイトにハマっている」「俳優になりたくて、彼女の収入に頼っている」「親の脛をかじって部屋にこもり、小説の投稿を続けている」なんていう話をよく聞きます。

 そういう人って、人の言葉から耳を塞いで、意固地になっていることが多いのです。

 これは“夢”だけの話ではありません。

 人生、諦めが肝心――です。

 もちろん、努力の結果、無理だと悟ったときの諦めです。諦めのつかない人はよく「ここでやめたら、今までやってきたことが無駄になってしまう」と言いますが、人生に無駄な経験なんて1つもありません。

『弘兼流 人生は後半戦がおもしろい』書影『弘兼流 人生は後半戦がおもしろい』(弘兼憲史、中央公論新社)

 若い人は知らないかもしれませんが、かつて「クジラは捨てるところがない」と習いましたよね。食用の肉や軟骨だけでなく、ヒゲや歯は櫛や置物などの工芸品に、毛は網に、血は薬に、脂肪は鯨油や肥料に、糞までが香料になる……。

 人生の経験も、クジラと同じ。

 今までに経験したことはすべて、その後の人生に役立てることができます。大学受験に失敗しても、就職試験に落ちても、親友に裏切られても、恋人に振られても、長年の夢を諦めても……その経験は決して無駄にはなりません。

 道に迷ったから、地図が読めるようになったり、深く傷ついたから、人に優しくなれたり……。様々な経験を積むことで、人の心は深く、豊かなものになります。寄り道が多いほうが、人生は味わい深くなるのではないでしょうか。