斎藤さんの父・正雄さん(86歳・仮名)は4年前に妻を亡くして以来、都内の実家で一人暮らしを続けていました。元気な高齢者として自立した生活を送っていた正雄さんですが、3年前から「鍵をどこに置いたか忘れる」「同じ話を何度もする」といった変化が現れ始めました。
「最初は年相応の物忘れだと思っていました」と斎藤さんは振り返ります。週末に実家を訪れる斎藤さんでしたが、平日は妻の美智子さん(52歳・仮名)と大学生の娘・香織さん(21歳・仮名)が交代で正雄さんの様子を見守っていました。
深刻化する認知症状、介護サービスを拒否
今年になって、正雄さんが近所のコンビニで支払いをせずに商品を持ち帰ろうとする出来事がありました。美智子さんのすすめで要介護認定を申請したところ、要介護1と判定されました。しかし、斎藤家にとって本当の試練はここからでした。
「父は認知症の診断を受け入れず、『自分はまだ大丈夫だ』と頑なに主張しました」と斎藤さん。正雄さんは徐々に食習慣が乱れ、冷蔵庫の中身をすべて出して食べ散らかしたり、夜中に何度も冷蔵庫を開け閉めしたりするようになりました。さらに義歯の管理もできなくなり、不衛生な状態が続きました。
「義父の食べカスだらけの義歯を洗ったり、食べ散らかした床を掃除したりするのが耐えられなくなりました」と美智子さんは打ち明けます。香織さんも「おじいちゃんが怖くなった……」と、祖父との接触を避けるようになりました。
斎藤さんは地域の訪問介護サービスを手配しましたが、正雄さんは「他人に世話になる必要はない」と激しく拒否。ヘルパーに暴言を吐いたり、時には腕をつかんで突き飛ばしたりすることもありました。3社の訪問介護事業者からサービス提供を断られ、斎藤さんは追い詰められていきました。
「平日の夜も実家に寄り、父の食事と服薬を確認してから帰宅するようになりました。週末は実家に仕事を持ち込んで父の面倒を見ていました」と斎藤さん。しかし当然のことながら仕事の質は著しく低下。常に父親が視界に入る環境では集中できず、睡眠不足と心労のため、3カ月で8kgも痩せてしまいました。







