「スティーブ・ジョブズ」を目指した人の末路

 なぜ「うまく話すこと」を目指してはいけないのか。極端な対比で考えてみましょう。

 想像してみてください。あなたは今、重要な商談の場にいます。

 もし、あなたが身振り手振りもなく、緊張で少し言葉に詰まりながら、しどろもどろの説明をしたとします。額には汗がにじみ、見た目は決してスマートではありません。

 しかし、そのたどたどしい説明を聞いた相手が、「なるほど、あなたの言いたいことはよくわかりました。その熱意に負けました、ぜひその件を進めてください」と言ってくれたらどうでしょう。あなたが望んでいたとおりのアクションを、相手が起こしてくれたのです。

 これは、ビジネスにおいて「大成功の説明」です。どれだけ見た目が不格好でも、目的を達しているからです。

 逆に、あなたがスティーブ・ジョブズのように、聴衆を魅了する完璧なプレゼンテーションを行ったとします。

 洗練されたスライド、抑揚の効いた声、完璧な間の取り方。話し終えた瞬間、聞き手からは「すごいプレゼンだったね!」「感動したよ」と賞賛の声が上がりました。

 しかし、肝心の相手は「いい話を聞いた」と満足して帰ってしまい、あなたが最も望んでいた商品の購入や、プロジェクトへの賛同には至らなかったとしたら……?

 それは、紛れもない「失敗の説明」なのです。

 私たちはつい、「上手な話し手」になることを目指してコンプレックスを抱きがちです。しかし、かっこいいプレゼンをして相手を感心させること自体には、ビジネス上の価値はありません。

 重要なのは、「どれだけ流暢に話したか」ではなく、「相手が動いたかどうか」という結果だけなのです。ここに気づかないまま「話し方」のテクニックばかりを磨いていても、それは自己満足のパフォーマンスに過ぎず、永遠に「説明がうまい人」にはなれないのです。

迷わないための「脳内コンパス」と2つの問い

 では、本当に説明がうまい人は、何をゴールにしているのでしょうか?

 私たちが目指すべきは、「上手な話し手」になることではありません。「説明」とは、話すこと自体が目的ではなく、そのコミュニケーションを通して相手になんらかの「変化」を起こしてもらうことです。

知識の変化:相手が内容を深く理解してくれること
行動の変化:次のアクション(購入、決裁、協力など)につながること

 この「説明の目的を達成する」ことこそが、唯一のゴールです。

 とはいえ、話している最中は誰でも緊張しますし、相手の反応が薄いと焦ってしまい、ついゴールを見失ってしまいます。

 そこで、説明の達人は、話している最中に常に頭の片隅で「2つの問い」を自分に投げかけ続けています。これを「脳内コンパス」として持っておくことで、話の迷子になることを防いでいるのです。

【説明の達人が持つ2つの問い】
問い1:この説明をし終えたときに、相手にどうなっていてもらいたいか?
問い2:結局、この話で一番言いたいことは何だったか?