「主筆」という職制に基づいて渡辺は、日本最大の発行部数を誇る読売新聞の社論を指揮し、世論形成への存在感を背景に政界にも絶大な影響力を持ち続けてきた。

渡辺の主張した社論に
反対することは許されない

 渡辺に「主筆」という立場をどう捉えているのか、問うた。

「〔主筆という立場は〕天職だと思いますね。僕の言っていることはね、そういうことについては正しいと思っているの。間違っていることを言っていると思わない。僕が先頭に立って色々な社論を書きますよ。

 これが読売の社論である。これに反対するものは駄目だ。それは統制しますよ。そうしなかったら新聞は成り立たん。『どうぞ皆さんご自由に、資質たるもの何も要りません、どうぞ』などということを言う新聞は、潰したらいいんです」

――最後には渡辺さんが意見を述べて…

「決める」

――その代わり、それまでの議論は尊重するということでしょうか。

「尊重といったって、納得できないものは尊重できない。主筆だろうが社長だろうが、新聞記者に変わりない。今だってそうだ。今だって僕は新聞記者なの」

――今も主筆であり続ける理由は。

「やっぱり俺は書いていたからだね。もう駆け出しの時から。命懸けの取材だな。後で考えてみるとね、殺される恐れもあった。そんなことは何度もあった」

――組織を束ねる経営者の立場と、論陣を張る主筆の立場は両立するのでしょうか。

「両立していますからね」

勉強量に裏打ちされた記事は
誰もが認めざるをえない

 長年にわたり社論を主導してきた渡辺だが、その背景には人知れず積んでいた研鑽があったとの証言もある。元読売新聞記者で詩人・文芸評論家の郷原宏はその様子に間近に接していた。

 一九七〇年代、女性向けティーン誌の過激な性表現が社会問題になった際、論説を決める会議を取りまとめていたのは、当時論説委員長だった渡辺だった。当時の郷原は解説部文化担当記者を務めており、会議に出席して意見を述べた。その場で渡辺は、何も言わずに黙って聞いていたという。