中国やロシアで「金」保有が増える背景
“米国売り”のトリプル安のリスクとは

 1月の米連邦公開市場委員会(FOMC)後、トランプ氏は「利下げが可能だった」と決定を非難した。そして次期連邦準備制度理事会(FRB)議長にケビン・ウォーシュ氏を指名すると発表した。トランプ氏に近い、金融緩和重視派の人物となることで、FRBの独立性が低下する懸念は増している。

 FRBは、完全雇用と物価の安定(ドルの価値の安定)を責務としている。中央銀行の独立性低下は、長い目で見ると通貨の信認を傷つける。総合的に考えると、ドル高を是正する政策は、基軸通貨であるドルの信認を低下させることが懸念される。

 中国やロシア、ポーランド、ブラジルなどの中央銀行は、価値が安定しているゴールドの保有量を基本的には増やしている(折を見て一部売却もしている)。ドルの減価リスクから、外貨準備など資産を守るためだ。欧州では、米国債の保有削減などを検討する機関投資家もいる。

 トランプ氏は、ドル高の是正が米国および世界経済にどう影響するか、慎重に考えていないのかもしれない。ドル安とFRBの利下げが進むと、一時的に米国の個人消費、設備投資、農作物など一部分野での輸出は増えるだろう。

 しかし、それが長続きするとは考えにくい。米国の人件費や土地の取得費用は高い。さらに、米国内の熟練労働者はかなり減少している。コストが高く、必要な労働力が十分でない米国で、製造業の完全復活を目指すのは至難の業である。

 ドル安が進むと、徐々に米国の輸入物価は上昇する。貿易赤字も増えるだろう。再びインフレが進行するリスクは高まる。そうなると、金利の上昇が鮮明化すると懸念される。金利上昇は株価の下落要因になり、景気を冷え込ませる。

 これにより、“米国売り”が発生する恐れも高まるだろう。ドルの信認が一段と低下すると、海外の中央銀行が米国債を売却、ゴールドの購入は増えると予想される。それによって、「売りが売りを呼ぶ」展開が想定される。

 米国内外の投資家がドル・米国債・米国株を同時に売るトリプル安が大規模に発生する恐れもある。その場合、商業用不動産やプライベートクレジット関連の不良債権が増えるだろう。米地銀の連鎖倒産が起きる恐れもある。トランプ氏のドル高是正は米国のみならず、世界経済と金融市場の不安定性を高めることが懸念される。

真壁昭夫さんのプロフィール