一方で、Teslaも福利厚生が充実していないわけではありませんが、ミッションへの共感をより強く求める文化があります。特にTwitter(現X)買収後の混乱期には、一時的に福利厚生が切り捨てられました。オフィスからはコーヒーマシンが消え、「トイレットペーパーすら社員が持参している」と報じられたほどです(現在は改善されています)。

 それでも当時、優秀な人材が残ったのは「強烈なミッション」に共感していたからでしょう。電気自動車(EV)で「世界を持続可能なエネルギーへ移行させる」という明確な目標に人生を賭けている人々にとって、一時的な福利厚生の削減は二の次だったはずです。

 最高のパフォーマンスを手厚い福利厚生で引き出す文化のGoogleと、ミッションへの強烈な共感を核に据える文化のTesla。どちらが正しいとかではなく、どちらが「自社の戦略」に合っているかという、経営の明確な「選択」がそこにはあります。

日本企業が抱える
イノベーションの課題とは

 この話を日本のマネジメント層にすると、決まって「羨ましい」という言葉が返ってきます。特に、ミッションを核に据えることで組織の目的意識を高く保つことができるスタイルが羨ましいそうです。

 ある大手日系企業の幹部は、シリコンバレーの現地法人で悩みをこう吐露しました。

「日本の本社からの駐在員は、解雇される心配がない。そのため、向上心のない社員も一定数、在籍し続けてしまう。これが経営者の最大の悩みだ」

 この会社は元々、素晴らしい理念を掲げています。しかし、現地の幹部の目には、「和や誠実さといった協調性を重んじる価値観」はあっても、「開拓者精神やイノベーションへの挑戦といった側面が根付いているようには見えない」といいます。

 終身雇用を前提とした「解雇できない」仕組みは、安定と引き換えにハングリー精神を失わせ、イノベーションが起きにくい土壌を作ってしまっているのではないか――。多くの日本企業が直面する課題です。