内側に宿る「三つのストーリー」の相乗効果
――「時間資本」が持つストーリーとはどのようなものでしょうか。
山上 古木には「三つのストーリー」が掛け合わされて宿っています。
一つは、木材としての入手地や建てられた家の建築年代と場所など、古木自体の「出自」に関わるストーリーです。「文化14年、長岡藩の北国街道沿いに棟梁の又七さんが建てた古民家で、その梁に使われていた古木を……」といった具合。それだけでも語りたくなるような背景があるということです。
二つ目は、その建物が何に使われていたかという「機能面」のストーリー。繭問屋や履物屋、診療所……など、そこで暮らした人々の営みが刻まれているのです。100年、200年という時間の中に先人たちの暮らしを感じられるなんて、神社仏閣での感動に近いものがあると思うのです。
三つ目は、空き家となった後、使われている木材を再利用して店舗や宿泊施設などの新しい姿に生まれ変わらせるという「未来に向けた再生」のストーリーです。
古民家を支え続けた木材を「古木」として再利用する 写真提供:山翠舎
一般的な建材は、時間の経過とともに劣化しますが、古木は、長い年月を経たからこそ生まれる風合いやゆがみ、色の変化などがむしろ優位性として捉えられ、そこに「物語を内包した価値」が加わるのです。
これらは単なる特徴ではなく、新たな空間やプロダクトに意味を与える要因となります。つまり、古木は「時間という不可逆的な要素が価値に転換された素材」であり、ここに新たな市場が生まれる可能性があると考えるに至りました。
――時間とともに木が宿す記憶は、容易に作り出せるものではない。だからこそ、古木の価値は「経年」にあると。ただ、その価値観をビジネスに結び付けることも容易ではないのではないでしょうか。
山上 ビジネスとして成立すると考えたのは、もちろん、明確な経済合理性を見いだしたからです。
一つに、古木には、古民家の解体というプロセスを経て初めて供給される「希少性」があります。供給量は構造的に限定されるため、市場における希少価値を生み出します。
もう一つは、古木は1本1本の表情や品質が異なるという「非再現性」です。代替が利く工業製品とは対極にあります。価格競争に陥ることがないため、唯一無二が求められるラグジュアリーやアートの市場に適合します。
例えば、先日までイタリア・ミラノで開催された世界最大級のデザインイベント「Milan Design Week 2026」では、現地を拠点に活動するデザイナーのロベルト・シローニ氏と共同で、同氏の古木を用いたアートピースの展示を行いました(参考記事・イタリア語)。
シローニ氏の作品は 「未来は過去の記憶の再編集である」ことをコンセプトとしており、「時間資本」を体現する一つの形として高い評価を受けました。これは、私たちの「古木=時間資本」という考え方と通じており、後述のように、当社でも「時間を経ることの価値」を顧客に実感していただける新しいサービスの開発に着手しています。
古木は自在に形を変え、国内にとどまらず、世界でも多くの人の目にとまり、結果として、より高い付加価値をもって評価されるグローバル市場を形成すると考えています。







