入院後
“情報の分断”がもたらした現実
幸いにも、命を取り留めたサトウさんだったが、右手には前回よりも強く麻痺が残ってしまった。
妻は医師に、涙ぐみながら尋ねた。
「どうして、インターネットがこれだけ普及している時代に、東京の病院の医療情報を北海道の病院に届けるだけで、こんなに時間がかかるんですか?」
医師は静かに答える。
「日本では、病院同士でカルテを共有する仕組みがまだ整っていないんです」
これは、脳外科医でデジタル医療にも精通している高尾洋之氏(東京慈恵会医科大学)から教わった、「今の日本で脳梗塞の病歴がある人が旅先で再発し、緊急搬送されたらどうなるか?」をストーリー仕立てでまとめたもの。フィクションではあるが、現実問題として、脳梗塞以外の病気(たとえば心筋梗塞、高血圧、ぜんそくなど)でも、日本中どこを訪れた場合でも、同じ事態は起こり得る。
高尾氏は、日本で初めて保険適用となった医療用アプリ「Join」の開発に携わり、政府の情報通信技術に関する戦略室の補佐官も務めるなど、医療の世界におけるIT推進の先頭に立ってきた第一人者だ。
医療DXが直面する
セキュリティ上不安
サトウさんのケースは、「電子カルテ」を病院間で共有するシステムが基本的に存在しないために起こった悲劇だが、こうした情報の分断を解消し、共有することで、より質が高く効率的な医療の提供を可能にし、最終的には国民1人ひとりの健康増進に貢献できるヘルスケアデータはこれだけではない。







