もうひとつは規格争いだ。前述のように複数の事業者が実施している実証実験は、顔認証式と無線通信式に分かれている。JR東日本も昨年11月から今年3月にかけて上越新幹線で顔認証改札機の実証実験を行っているように、顔認証の可能性を否定するわけではない。

 その中で、UWB方式を「本命」とした理由について、今井氏は「UWB方式であればSuicaと同等の速度(1分当たり60人)で旅客をさばける」と説明。顔認証では処理能力が不足するとの認識だ。また、顔認証は事前の登録が必要で、定期券利用であればともかく、非日常的な利用にはなじまない。事業者には顔写真という個人情報を保持するリスクがあり、利用者としても不安や抵抗を完全に払拭できない。

 無線通信の選択肢はUWBだけではない。前述のミリ波方式もそうだし、東京メトロが実証実験中のタッチレス改札機はBluetoothビーコン方式を採用している。従来のBluetooth位置測定技術は1.5メートル程度の誤差があったが、共同開発するSinumy社のパーソナル位置測定技術により、誤差を10センチ程度まで縮小した。UWBと異なり、Bluetoothは現行スマホのほぼ全てに搭載されており、普及のハードルは格段に低い。

 ただし、乗車券の判定は、QR乗車券やクレジットカードタッチ決済で導入済みの東芝が提供するセンターサーバー式の交通チケットオープン化プラットフォーム「どこチケ」を採用しており、ICカードとの互換性はない。

 Suicaとの互換性を確保することで、他社に気兼ねなく導入できるという見方もある。同時にJR東日本には、クレジットカードのタッチ決済で私鉄各社が足並みを揃える中、他社の動向に縛られずに独自路線を貫く一面もある。

 だが、UWB方式ウォークスルー改札は、独自規格ではなくUWBの国際標準化団体FYRAの共通規格を採用するなど、標準化を意識した設計になっており、規格争いの主導権を握る意図は明確だ。

 いずれにせよ、相互直通運転が広く行われている首都圏では、ユーザー利便性の観点から見てもサービスは共通化されるべきだろう。どこまでの精度、拡張性が必要とされるのか、どこまでコストが許容されるのか、意思統一にはもうしばらく時間がかかりそうだ。QR乗車券では同社を中心とした連合を構築しているように、ウォークスルー改札でも同様の動きが見られるか注目したい。

 既にUWB方式はデファクトスタンダードを目指して動き出している。2027年春には広域品川圏の5駅(浜松町~大井町間)で、事前登録したモニターを対象とする実証実験を実施予定だ。

「百聞は一見にしかず」とは言うが、ウォークスルーの真価を知らしめるには、なおいくつものハードルがある。2028年度の「Suica Renaissance」に向けて、明確な未来像が発信されることを期待したい。