AI活用で、人事部門の発言力と地位が向上する

 特徴量エンジニアリングは一度でうまくいくわけではない。様々なデータの選択と掛け合わせによって試行錯誤を繰り返す必要があり、調整に数ヵ月程度かかることもあるという。

河合 AI活用のポイントは、「つくることより、判断すること」です。いまは生成AIブームで「つくる」ほうに目が向きがちで、多くの企業では各部門の業務に応じた定型的なプロンプトの作成が盛んに行われています。確かに一定の効果はありますが、AIの出力を人間が「どう判断するか」「その判断を説明できるか」がより重要です。ビジネスにおいては、「AIがそう出力したから……」では通りませんので、できるだけ、説明が可能で、検証が可能なAIを作っていくことが重要になります。

 また、精度を過剰に上げるのに注力しないことも重要です。タスクにもよりますが、精度は70%程度であれば、一旦は良しとします。例えば、いままで見えていなかった離職確率が高い社員がわかればOK、営業では受注確率が高い順に見えるだけでもOKと考えましょう。このモデルができることで、「営業の動きが変わる→実績が出やすくなる→離職確率が下がる」という好循環を生むことができるはずです。実務では、完全に当てることより、改善できた方が良い事例は多くあります。無理にデータを取りにいくと過剰なバイアスがかかり、結果が歪みます。

 そもそも、予測AIにしろ、生成AIにしろ、モデルを1回つくれば終わりではありません。前提となるデータや自社を取り巻く環境が変われば、当然、結果も変わってきます。ずっと精度良く使い続けられるAIモデルはないといっていいでしょう。

 人的資本経営の時代を迎え、人事部門の役割と負担はますます重くなりつつあるが、それは、社内において、人事部門の発言力とポジションを高めるチャンスでもある。そのきっかけがAI活用であり、データ分析による離職の抑制やエンゲージメントスコアの改善、そして、業績アップへの自社ならではの“勝ち筋”を見つけることが重要となる。

河合 全社的な経営課題である人的資本開示、人的資本経営に人事部門が貢献していくには、ミクロの解決をマクロな成果につなげるというアプローチが重要です。

 話を整理すると、まず、データの棚卸しを行います。属性・労務・研修・評価といったデータを社員番号で統合できるかどうかを確認してください。また、営業実績、コンプライアンス研修など、他部門のデータも取り込むと立体的な分析(多変量での分析)が可能になります。

 次に、分析の目的(タスク)を設定します。「何を予測したいのか」「何を最適化したいのか」を先に決めるのです。例えば、離職確率の予測、成約確率の予測、異常検知や変化点検知など、目的(タスク)によってデータの選択や分析の切り口が変わってきます。

 優先度の選択も忘れないようにしてください。なんでもかんでも一度に行おうとしないことが大切です。難易度がそれほど高くないけれどもインパクトの大きいタスク(前述の「営業の動きが変わる→実績が出やすくなる→離職確率が下がる」など)から取り組み、成功体験を積むとよいでしょう。その点で離職率予測がお勧めです。

 さらに、予測AIを利用するにあたっては、一定程度、AIモデルについての理解が必要です。詳しくない人は、イメージを掴むために、生成AIに「従業員の離職確率を予測するにはどういうデータがあればいいのか」と聞いてみたり、「予測モデルをつくってみて」と指示してみるとよいでしょう。用いるデータや特徴量エンジニアリング、予測AIの具体的なモデル実装(プログラミング)の例が出てきます。セキュアな情報環境であることを前提に、サンプルデータを生成AIに入れ、「離職率予測を出してみて」と指示してもいいでしょう。まずは感覚を掴んでみることが大事です。