スタートアップ最前線Photo by Shotaro Imaeda

日本のスタートアップが海外勢に比べて「小粒」といわれる背景には、実は日本の会計制度が抱える構造的な問題がある。一橋大学大学院の野間幹晴教授は、日本基準特有の「のれんの定期償却」が買い手企業の足を引っ張り、スタートアップの正当な評価を阻む“買収の壁”になっていると指摘する。長期連載『スタートアップ最前線』の本稿では、野間教授がIFRS(国際会計基準)との比較から見える「不都合な格差」を解き明かすとともに、三菱電機とAIスタートアップ「燈(あかり)」の事例から、日本企業が成長を加速させるための処方箋を語ってもらった。(聞き手/ダイヤモンド編集部 今枝翔太郎)

日本基準の「のれん償却」が壁に
スタートアップの買収価格を抑制か

――日本のスタートアップは、海外に比べて「小粒」といわれることが多いようです。国内スタートアップの成長には、どのような課題があると思いますか。

 日本と海外、特に米国とは、スタートアップに対する投資金額の差が歴然としています。日本はスタートアップに投下される資金が圧倒的に足りません。

 資金量を増やすためには、イグジットの多様性を確保する必要があります。現在日本のスタートアップのイグジットは、新規株式公開(IPO)が中心です。これに加えて、スタートアップが買収されるケースを増やしていくべきです。

 そのためには、のれんの償却問題は避けて通れません。日本の会計基準では20年以内ののれんの規則的償却が必要ですが、国際会計基準(IFRS)や米国基準では、のれんの償却を行いません。採用する会計基準によって差が生じてしまうのです。

 のれんの償却は、一見どうでもよい話に思えます。費用処理をされているのだから、キャッシュフローで企業価値を評価するなら、のれんを償却しようがしまいが全く変わらないからです。

 ところが日本の株式市場では、投資家はキャッシュフローではなく利益をベースに企業価値を見ている場合が大半で、PER(株価収益率)で評価されます。日本基準ではのれんを定期償却して販管費に計上するため、日本基準を採用する企業ではIFRS採用企業より営業利益が少なくなってしまいます。日本でM&Aによるイグジットが進まず、スタートアップのバリュエーションが抑えられてしまう背景には、この「のれんの償却」問題があるように思います。

――では、国内企業がのれんの償却のないIFRSに一斉に移行すればよいということになるのでしょうか。

日本の会計制度が抱える「のれん償却」という重い課題に対し、解決の糸口はどこにあるのか。次ページでは、日本基準の限界を指摘するとともに、大企業とスタートアップが共に勝ち残るための「真の連携」の在り方を深掘りする。野間教授が「国内スタートアップが世界で花開くヒント」として期待を寄せる、三菱電機とAIスタートアップ「燈(あかり)」のタッグが示す衝撃のシナリオとは――。