商品が持つストーリーや
社会的な意味を設計できるか
象徴的な事例がキリンの「晴れ風」である。同ブランドは単なる新商品ではなく、地域への寄付や地域活性化につながる取り組みを組み合わせたプロジェクトとして展開された。消費者は商品そのものだけでなく、その商品を購入することで生まれる社会的な価値にも共感した。
同様の動きは他の商品にも見られる。キリンの「氷結 もったいないシリーズ」は、規格外果実の活用や食品ロス削減という社会課題と商品価値を結び付けた取り組みとして展開されている。近年は企業のサステナビリティ活動そのものがブランド価値の一部として認識されるようになっており、酒類業界も例外ではない。
こうした流れを見ると、これからの飲料業界では単に商品を開発するだけでなく、その商品が持つストーリーや社会的な意味まで設計できる人材の重要性が高まっているといえそうだ。
ノンアルコール市場の成長も同様である。
飲酒人口が減少するなかで、各メーカーはノンアルコール飲料を重要な成長分野として位置付けている。かつてのノンアルコール飲料は「お酒を飲めない人向け」の代替品というイメージが強かった。しかし現在は、ビールからアルコールを取り除く「脱アルコール製法」を活用し、本格的な味わいを追求する商品開発が進んでいる。
さらに各社は既存ブランドの資産を活用しながら、ノンアルコール商品を拡充している。サントリーは「オールフリー」ブランドからノンアルコールサワーを展開し、キリンも「氷結」を連想させるノンアルコール商品を投入している。消費者にとって親しみのあるブランドを活用することで、新しい市場を広げようとしているのである。
ここでも求められるのは、生活者の価値観や行動変化を捉える力だ。アルコールを飲まない人が増えているのか、それとも飲む量を減らしたい人が増えているのか。どのような場面でノンアルコール飲料が選ばれるのか。そうした細かなニーズを読み解き、新たな市場を生み出すことが重要になっている。
さらに近年は、消費者との接点そのものも大きく変化している。
従来、酒類メーカーのマーケティングはテレビCMや店頭販促が中心だった。しかし現在はSNSを活用したコミュニケーションが急速に広がっている。こうした動きは、営業やマーケティングのあり方そのものを変えつつある。従来のような大量の広告投下や人海戦術だけではなく、データやデジタルツールを活用しながら顧客との関係を継続的に育てる発想が求められている。
飲料業界は今、「何を売るか」を競う時代から、「なぜ選ばれるのか」を競う時代へと移りつつある。その変化の最前線で求められるのは、商品開発、マーケティング、デジタル活用を横断しながらブランド価値を高めていける人材である。市場が成熟する時代だからこそ、そうした力の重要性はますます高まっていくだろう。
(富士経済 フード&ヘルスケア事業部 森田一輝氏への取材を基に編集チームが構成)









