企業の幹部はみな優秀で、高い給料をもらっている。だが「選択する」という最も基本的な戦略さえ実行できなかった。どんな企業でも、AもBもCもすべて得意であることを願っている。

 けれども、現実はそうではない。何かが得意ということは、何かが犠牲になることでもある。これは受け入れなければならないトレードオフだ。なのに、ほとんどの企業は、大きな強みをもつには、ほかの何かを切り捨てる必要があるとわかっていない。

 どんな銀行も、できれば夜遅くまで営業したい。そのほうが顧客にとってはるかに便利だからだ。なのになぜ、彼らはあんなに早い時間に閉店してしまうのだろう?それは店舗を開けておくのにお金がかかるからだ。どの銀行も、そのお金を出したくない。

 フランセスとアンの本に登場したコマース銀行は、この問題に果敢に挑戦した。コマース銀行は年中無休で、平日は夜8時まで営業している。ほかの銀行がお金を理由にできないことを、なぜコマース銀行はできたのか?それは、営業時間を延ばす代わりに、利息を極端に安くする道を選択したからだ。顧客に「雀の涙ほどの利息でも預金したいと思いますか?」と尋ねれば、答えはもちろん「ノー」だろう。

 だがこの銀行の顧客は、預金の利息に重きを置いていなかった。それよりも、仕事帰りに寄れるほうがずっと便利だ。

何かを達成したいのなら
「反射モード」をやめよう

 フランセスとアンはこう書いている。「何か大きな欠点をもつことは、偉大さを達成する唯一の方法だ。欠点をもつことを拒否すると、無難な結果しか手に入らない」

 この本には、銀行や航空会社の実例が数多く登場する。それらを読みながら、あることに気がついた。私たちの日常生活にも、同じ原則が当てはまるのではないだろうか?

 私たちもまた、「選択」を恐れることがあまりにも多すぎる。何かのドアを閉めれば、ほかのドアが開くことに気づいていない。やがて私たちは、自分でも気づかないうちに深刻な状態に陥ってしまう。「ノー」と言えないがためにスケジュールを詰め込み、1つの予定を早めに切り上げ、次の予定には遅れるということを繰り返すのだ。

『ロングゲーム 自分を取り戻す人生戦略』書影ロングゲーム 自分を取り戻す人生戦略』(ドリー・クラーク、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 これでは本当の進歩につながらない。1個を1キロ動かすのではなく、たくさんのことを1センチ動かしているからだ。人は忙しいと「反射モード」になる。目の前の仕事をこなすのに精いっぱいで、時間をかけて自分自身の課題を見つけることができない。

 すべてのことに「イエス」と言うのは、すべてに凡庸であるということだ。逆に「ノー」と言うことができれば、偉大な存在になれる貴重なチャンスが手に入る。

 もちろん、「ノー」と言えば誰かをがっかりさせることになる。加えて、自分にできないことを認める必要もある。私自身、本の執筆などの長期的なプロジェクトを行っているときは、メールの返信までなかなか手が回らず、受信箱がカオス状態になることは受け入れている。返事が遅いと誰かを怒らせることになるだろうが、それもしかたがない。

 いずれにせよ、何かを達成したいのであれば、自分にできることを自分自身で選択しなければならない。