「成功すればするほど顧客を失う」
マッチングビジネスのジレンマ
ビズリーチが作り上げたプラットフォームには、いくつかの落とし穴が潜んでいました。
一つは、マッチングビジネス特有の「良いサービスを提供すればするほど、ユーザーが去っていく」という宿命です。人材紹介は、転職が成功した瞬間にユーザーが離れていってしまうビジネスモデルです。特にハイクラス層ほど、一度転職すれば数年は市場に戻りません。良いサービスであればあるほど、ユーザーを集め続けるためのコストが膨らみ続けるという矛盾を抱えています。
さらに「ダイレクトリクルーティング」は、企業の採用担当者の負担を増やすという側面がありました。直接候補者にアプローチできるというメリットの反面、採用担当者は自分で候補者を探し、メッセージを送る必要があります。膨大な候補者をスクリーニングし、一人ひとりに響くスカウト文面を書き続けるには、絶対的なリソースが必要です。どれほど便利な手法であっても、いずれは「これ以上は物理的に手が回らない」という、マンパワーの壁に突き当たってしまいます。
ビズリーチのプラットフォームは、立ち上げ期に一定の成功を収めた後は、売り上げや規模を拡大しようとすればするほど負荷が大きくなり、自らの構造によって成長がストップしてしまうビジネスモデルだったのです。
採用という「点」のビジネスから
「線」のビジネスへの拡張
この状況に対してビズリーチが出した答えが、人材活用プラットフォーム「HRMOS(ハーモス)」の導入でした。
HRMOSは、採用管理から労務・勤怠・タレントマネジメントまで、一連の人事関連業務を支援するサービスです。このシステムには、採用選考中の候補者データに加え、入社後の評価や勤怠といった人事データが全て集約され一元管理されます。
採用した人材のデータがHRMOSへ蓄積されるほど、ビズリーチの採用精度は高まることになります。また、一度データを集約した企業にとって、他社ツールへの乗り換えは、データ移行や業務の再設計など大きな障壁を乗り越えなくてはいけないことを意味します。これは甚大なスイッチング・コストです。
採用という一度きりのサービス(点)を、入社後の人事データ管理という日常的なインフラ(線)につなぐことにより、ビズリーチは強力な防護壁を築き、他社への乗り換えを防ぐ囲い込み構造を完成させました。企業の人事データ基盤という簡単には切り崩せない領域に踏み込むことで、同社は高収益の源泉を守ろうとしたのです。
しかし、この強固な壁の内側で、ビジョナルという企業が抱える最大の自己矛盾が浮上します。
HRMOSという高度な管理システムを導入した企業であっても、ビズリーチから魅力的なスカウトが届き続ければ、結局エース社員が社外へ流出してしまいます。
「転職させるツール」と、「転職を管理するツール」。この二つの矛盾する顔を持つ同社はいかにして顧客企業を納得させたのでしょうか。







