「社内版ビズリーチ」が作る
転職が必要ない世界

 彼らはその矛盾を「転職が必要ない世界」を作ることで解決しようとしています。それはどういうことなのか?その答えは、同社が導入した「社内版ビズリーチ」を紐解くことで見えてきます。

「社内版ビズリーチ」とは、外の採用で培ったアルゴリズムを、社内の異動や活性化に転用し、社内でスカウトを機能させるサービスです。多くの優秀な人材が外に目を向けるのは、社内にあるチャンスに気がつかないからです。隣の部署でどんなポジションが空いているのか、自分のスキルが他部署でどう活かせるのか、社内の実態がよく見えないからこそ彼らは外からのオファーに耳を貸してしまいます。

 ビジョナルは、社内の人材をデータ化し、部署間でスカウトを機能させる仕組みを構築しました。社内を「可視化された労働市場」に変える。つまり、会社を辞めなくても、社内で転職と同じようなキャリアの更新ができる状態を作り出そうとしているのです。

 この仕組みが機能するほど、企業はビジョナルのデータ基盤への依存を深めることになります。社内の人材データはHRMOSに蓄積され、社内スカウトはそのデータを燃料に動きます。

 採用(ビズリーチ)→人事管理(HRMOS)→社内流動(社内版ビズリーチ)という3つのサービスが一体化したとき、企業が他社ツールに乗り換えるコストは桁違いに高まります。転職させない仕組みは、社員へのサービスであると同時に、企業をプラットフォームに縛り付ける強力な楔(くさび)なのです。

 ここでもビジョナルは、自ら築き上げたビジネスモデルの課題を次のサービス展開の踏み台にするという連続した戦略設計を行っています。同社の「20%増益」という大幅な黒字の多くは主軸であるビズリーチ事業から生まれています。

 しかし彼らは、その爆発的な利益をHRMOSや社内版ビズリーチといった「未来のインフラ」へと迷わず注ぎ込んでいます。目先の利益相反を恐れず、次の防衛線を張るために原資を投じる――この徹底した連鎖こそが、「増益の裏側」にある真の強さなのです。