豊胸注射が流れ落ちて、お腹に謎の瘤が…相次ぐ美容医療後遺症トラブルに形成外科学会元理事長が警鐘「美容医に応分のリスクを負わせよ!」Photo by Chikara Murakami

美容医療市場が空前の急拡大を遂げる陰で、深刻な後遺症トラブルが相次いでいる。注入したフィラー(充填剤)が体内で移動し、腹部や外陰部が異常に膨れ上がるといった深刻な被害が頻発。しかし未承認薬を用いた危険な施術が放置され続けている。特集『狂乱の美容医療 膨張市場の「闇」と錬金術』の#6では、大阪みなと中央病院で「美容医療後遺症外来」を開設した細川亙院長(元・日本形成外科学会理事長)が、利益優先の業界構造と被害者が泣き寝入りを強いられる法制度の限界を告発する。(聞き手/フリーライター 村上 力)

後遺症外来に集まる未承認薬の被害
手軽な金もうけに走る美容医の危うさ

――大阪みなと中央病院は、2019年の移転に伴い美容医療センターを開設し、特殊な外来として「美容医療後遺症外来」を設けています。最近の患者さんの傾向はいかがでしょうか。

 後遺症外来を本格的にやり始めたのはここ3年ぐらいですが、一番多いのは、異物注入、いわゆる「フィラー注入」による後遺症です。特に「アクアフィリング」や「アクアミド」というような物質注入によるトラブルが頻発しています。

 フィラー注入は、大手美容グループも含め日本中のほとんどの美容クリニックで長らく使われてきました。ところが注射を打ってから5年、10年、20年とたった今になって、いろいろな害を生じてきたケースが数多くあります。

――どのような症状が出るのでしょうか。また、なぜそうした危険な物質が使われているのですか。

 一つには、注入した物質が時間の経過とともに周辺に移動してしまうことです。例えば、胸に入れたフィラーがどんどん体の下に流れ落ちて、おなかまで落ちてきて膨らんだり時には外陰部(大陰唇)が腫れ上がったりした例もあります。もう一つは、注入した物質によって生じる慢性的な炎症症状の出現です。しこりができたり、痛みを訴えたりといろいろなパターンがあります。

 そもそもアクアフィリングなどは、厚生労働省が医薬品として承認している物質ではありません。厚労省未承認の薬剤や医療機器を国内で製造・販売してはいけないという薬機法という法律はあります。

 しかし、そのような未承認物質を「医師が個人の判断で患者に使うこと」を禁じるルールはありません。厚労省は「医師の裁量には首を突っ込まない」という姿勢を続けており、美容目的の薬剤や医療機器については承認や認可というような行政としての作業をほとんどしていません。従って美容の世界では、認可外の物質や機器を使わずに医療を行うことは不可能だという状況にあります。安全性が担保されていない未承認薬も多用されています。

――患者からすれば、医学部を出て、国家資格を持つ医師が勧めるものだから「当然安全なのだ」と信用してしまいますよね。

 その通りです。しかし医師だから信じる、ということは大変危険です。美容の医師を無条件に信用してはいけません。全員とは言いませんが、かなりの美容医が「手軽に金もうけをする」ためにこの分野に入ってきた人たちですから。

 昔、私は「安直に美容クリニックの門をくぐって被害に遭うのは、知らないキャバクラに入ってぼったくりに遭うのと同じ」と、ある美容外科学会の特別講演で言いました。

 普通に立派な店構えだから悪いことはしないだろうとか、テレビなどで宣伝しているから大丈夫だろうと思っていたら大間違いです。「両目1万9800円で二重まぶた作製」という広告を見て行ったら、たこ糸のようなものを見せられ「この糸を使って手術するのが1万9800円、こっちの細い糸できれいな二重にしたいなら20万円」と迫られたり、ひどいところだと手術を始めた後に「追加料金を払わないときれいにならない」と言い出されたりする。

 このような完全な悪徳商法が日常化しているクリニックさえもあります。

二重整形1万9800円の広告で誘い込み、強引に高額施術へ誘導する悪徳手法から、数年後に体内で薬剤が移動しておなかが膨れ上がる恐怖の副作用まで――。「知らないキャバクラに入ってぼったくりに遭うようなもの」と警鐘を鳴らす細川氏。次ページでは、なぜ危険な「注射施術」が大手グループで乱発されるのか、そして「学会が単なるセールスの場と化した」美容医療界の構造的な病巣と、後遺症被害者を救うための具体的な提言を明かす。