美容医療といえば「美容整形」のイメージだった。それが今やヒアルロン酸やボトックスの注射など、メスを入れない「プチ整形」が主流に。美容医療のトレンドの変遷は、美容クリニックの栄枯盛衰に直結する。特集『美容医療 美は金で買える』(全8回)の#1では、今の勝ち組はいったい誰なのかをレポートする。(ダイヤモンド編集部 相馬留美)
「美容整形」は美のために
健康な人の姿かたちを変える医療
「消せないシミなんて、もうないのよ」──。
東京都内の美容クリニックの“常連”だという50代の女性は、明るくこう言い放った。彼女の肌にはシミ一つなく、10歳は若く見える。クリニックに定期的に通い、医療レーザーや美容医療機器を使って「メンテナンス」を施すのだそうだ。
そもそも、どこまでが美容医療の範囲なのか。その定義について、日本美容医療協会の理事長で自身も美容外科医の青木律氏は、「医療のうち、姿かたちを変えるもの」と説明する。
美容外科(俗称「美容整形」)の歴史は古い。古代インドで行われいた「鼻そぎの刑」を受けた罪人に、鼻を形成する手術を施したことが出発点だという説もあるほどだ。
とはいえ、国内で普及し始めたのは1970年代。戦争による傷痕を修復したいというニーズと、技術の進歩が相まって、美容外科という市場が発達したのだ。
美容外科は、基本的には形成外科の技術を使う。例えば女性の胸を大きくする「豊胸」手術と、乳がんで乳房を切除した後に再建する形成外科の施術は、同じ仕組みだ。美容外科と形成外科の最大の違いは、手術を受ける人が健康か否かである。
業界に追い風が吹いたのは2001年。テレビ番組「B. C. ビューティー・コロシアム」の放送が始まった。美容外科によって“本当に”美しくなる相談者の姿は、業界の最大の宣伝になった。「番組の放送後は予約の電話が鳴りやまなかった」と湘南美容クリニックを率いるSBCメディカルグループ代表の相川佳之氏は振り返る。
とはいえ、メスを入れる施術は高額だ。「親にもらった顔を傷つけたくない」といった抵抗感もあり、一般には広がらなかった。施術を受けたことを他人に話すのはもっての外という風潮も残っていた。
また実際にメスを入れる施術を受けると、傷口が赤くなったり腫れたりし、施術から回復までの期間を「ダウンタイム」と呼ぶが、ダウンタイムが長い施術は、長期にわたって外出できないなど、一般の人にとって現実的ではなかった。
美容医療の裾野を一気に広げたのは、2000年以降に普及した「切らない美容医療」の発展だ。