狂乱の美容医療 膨張市場の「闇」と錬金術#1筆者がヒフコNEWS取材で訪れた仏パリでの国際会議「IMCAS World Congress」の会場 Photo by Yoshitaka Hoshi

美容医療市場が膨張を続けている。従来の「切る整形」に加え、ヒアルロン酸注射やレーザー治療などの「繰り返し長く続ける非外科的施術」へと重心を移し、外資系ファンドが群がる巨大な投資対象と化した。この「単価×頻度×人数」で稼ぐビジネスモデルの波に乗り、国内で覇権を争うのが、SBCメディカルグループやTCB東京中央美容外科などの「七大クリニック」だ。しかしバブルの裏側では大手チェーンを敬遠し、個別の対応力を売りにする皮膚科・形成外科などの「実力派独立クリニック」を選ぶ消費者も増えている。特集『狂乱の美容医療 膨張市場の「闇」と錬金術』の#1で、光り輝く巨大市場の裏に忍び寄るひずみと、変貌する自由診療ビジネスの深層に迫る。(ジャーナリスト 星 良孝)

世界17兆円の「巨大産業」へ変貌
美容医療の国際学会にファンドも熱視線

 2026年1月、仏パリで開催された国際会議「IMCAS World Congress」。美容皮膚科、形成外科、美容外科、アンチエイジング医療分野における世界最大級のこの国際学会には毎年、世界中からトップクラスの医師や研究者が集結し、最新の注入治療や再生医療、美容レーザーなどの画期的な研究成果や医療技術が発表される。

 現地取材で会場を訪れると、出席者は医療従事者だけではないことに意外な驚きを覚えた。会場の壇上で最新のトレンドについて語る医師たちに交ざり、スーツに身を包んだ巨大投資ファンドや戦略コンサルタントの幹部、さらには医療機器メーカー、注入剤メーカー、スキンケア企業のトップや投資家たちが会場を行き交い、異様な熱気に包まれていたのだ。3日間の参加者はおよそ2万人に上る。

 美容医療は今や、診療室の中で完結する医療の枠を超え、世界中から多額の資金が流入する巨大産業としての性格を強めている。

 複数の試算が存在するが、米国の調査会社Grand View Researchの推計によれば、世界の美容医療市場は、26年に1092億ドル(1ドル160円換算で約17.4兆円)に達する。日本国内の市場も、矢野経済研究所によると24年の医療施設収入高ベースで6310億円(前年比106.2%)に達し、7000億円規模が視野に入る。

 こうした世界的な市場膨張の波に乗り、国内成長の受け皿となっているのが、豊富な資本力と組織力を誇る大手チェーン群だ。詳細は後述するが、本稿ではその中でも特に規模の大きい主要プレーヤーを「七大クリニック」と位置付ける。

 国内市場は、女性の外見上の悩みに応える多様な施術が増え、若年層から高齢層、さらには従来縁遠かった男性層への浸透、インバウンド需要の増加などを背景に急成長を遂げた。七大クリニックは大都市部を中心に身近な場所に医院を構え、広告やSNSを駆使して大量の顧客を集めることで、美容医療を「日常のメンテナンス」へと変え、存在感を強めている。 

 しかし、市場が急激に膨張する中で新興グループも続々と生まれており、高額契約や返金を巡るトラブル、強引な集客手法、さらには医師の経験不足に伴う安全性への懸念など、急成長故のゆがみも表面化している。

 国内の美容医療市場を席巻する七大クリニックとは、一体どのような組織であり、どのようなビジネスモデルで急速な成長を実現しているのか。そして画一化された巨大チェーンの裏側で、なぜ今、専門医らが運営する独立クリニックに人々が逆流し始めているのか――。

 次ページでは、変貌を遂げた美容医療の施術の全体像をひもとくとともに、七大クリニックそれぞれの経営のからくり、そして海外で加速する「美容医療の産業化」の最前線を明らかにする。