好奇心を働かせて
何が真実かを見極める

山極:重要なのは、「事実(=ファクト)」と「真実」は違うということなんです。自分の目で見たものは「事実」だけど、その事実の裏にあるものは好奇心で見定めていかないといけない。

 たとえば、アリの行列を見て、「この行列をつくっているのは何だろう」と思う。行列をつくっていることは、実際に見たわけだから事実ですよね。

 だけど、そこにある真実は見ただけではわかりません。アニメーションでアリたちが言葉を交わしているのを見ていれば、「おい、あっち行こうぜ」「こっち行こうぜ」って言いながら行列をつくっていると思ってしまうかもしれない。本当は、アリが喋るわけはなく、フェロモンを出すことで列をつくって歩いているわけです。

 そういう自然界の「事実」から、僕らは想像するわけです。子どもだけじゃなくて、大人も想像する。いろんな事実があるけれど、それだけでは、世の中の真実は見渡せません。好奇心を働かせながら想像し、何が真実かを見極める。人間は、そうしたことを続け、真実の範囲を広げてきたんです。

 でも今、フィクションやファンタジーがどんどんデジタル化して子どもたちに迫っているために、現実の世界を見誤ってしまう可能性がどんどん増しています。

「人間とは何か」の答えは
動物園で見つかる

小菅:究極的に人間は、成長する過程のどこかで「自分とは何か」ということを問うことになると思うんですよね。自分が何者かを考えるときに一番わかりやすいのは、たとえば山極さんと自分の違いとか、柔道部の先輩と自分との違いとかを、たくさん見ること。それを繰り返すことによって自分自身というものがわかってくる。

山極:自分だけでは自分というものはわかりませんからね。

『動物はふしぎ』書影動物はふしぎ』(山極寿一・小菅正夫、ポプラ社)

小菅:「人間って何なんだ」と考えるときに、人間だけ見てもわからないのも同じです。

 だから、人間を知るには動物園が一番いい。チンパンジーを見て、「こんなことをするんだ、俺たちはこういう反応はしないよな」と思う。

 ゴリラやクマ、その他さまざまな生き物を見て、それらと自分との違いを知っていけば、やがていずれの生き物とも違う人間というのはこういうもんじゃないかということを何となく考えるのではないでしょうか。そんな思考を巡らせるのに動物園は非常に良い場所だと思うんですよね。

 いろいろな場所でいろいろな生き方をする生き物を知ることは、結局は自分自身を知るヒントになるんじゃないかという気がします。