M&Aトラブルがなくならない理由
「悪意がなくても同じことが起こり得る」

――地面師事件もそうですが、M&Aトラブルに関する報道への反応を見ると「なぜ逮捕されないのか」という意見を数多く見かけます。ただ、関係者のほとんどは逮捕されていませんよね。

片田江:捕まっていないですね。

藤田:「なぜ捕まらないのか」というより、「なぜ罪に問うのが難しいのか」ということだと思います。一般的な詐欺事件にも通じるところですが、「だまそうという意思」が仮にあったとしても、それを立証するのが難しい。だから、なかなか刑事事件になりにくい面があると思います。

片田江:実際に起きた事例を見ていくと、「お金を引き抜く」という行為については、結局「経営判断」とされてしまうところが大きいのだと思います。会社を買収すれば、買い手側は大株主になり、場合によっては代表取締役にもなる。買収した会社の代表取締役になる場合もあります。親会社の代表取締役であり、株主でもある。つまり、その企業グループの中では絶対的な権限を持つわけです。

 その立場で、子会社のお金を親会社へ持っていく。結果として子会社の経営がおかしくなったとしても、「経営施策の失敗」と整理されてしまえば、それは非常に不幸なことではあるけれど罪に問うのは難しい。つまり、悪意がなくても同じことが起こり得るってことですよね。もしかしたら罪に問えるケースもあるのかもしれませんが、現状そうなっていないのは、こうした事情もあるのかなと思います。

M&A仲介会社の怠慢
悪質な買い手の逃げ口上

――藤田さんのご著書『ルポ M&A仲介の罠』で取材されたトラブルを起こした買い手企業の中には「“すぐに”経営者保証を外すつもりはなかった」と話している人もいるんですよね。

藤田:そうです。ただ、経営者保証をまったく外すつもりがなかったわけではない。外すつもりはあったけれど、M&Aの後“すぐ”自分が代わりに個人保証を引き受けるのではなかったという趣旨です。

片田江:そもそも仲介会社が経営者保証についてきちんと確認していなかったことが問題です。本来であれば、「いつ、誰が、どうやって経営者保証を外すのか」を事前に決めておかなければいけない。例えば今日が株式譲渡日なら、何日に、どういう手続きで外すのか。そこまで決めた上で、確実に実行されるようなサービスになっていなかったということですよね。そこは当然、M&A仲介会社がやらなければいけないことだと思います。

 しかし、そもそも経営者保証を外さないこと自体を罪に問えるかというと、それも難しいですよね。経営者保証を外すかどうかは最終的には金融機関の与信判断にも関わりますから。

藤田:そこだけを捉えればそうですね。最初から経営者保証を外すつもりがないのに、「外します」と約束して契約を結び、会社を自分のものにせしめたのだとしたら話は別です。代金を払うつもりがないのに「払います」と言って物を手に入れるのと、構造としては似ていますよね。

片田江:でも、「最初からそのつもりだった」と証明するのが難しい。

藤田:「金融機関から駄目だと言われた」と説明することもできるし、信用がない人物なら実際に金融機関に行ってアリバイを作ることもできますからね。

片田江:そうなんですよね。それを罪とするのは、やっぱり難しいんだと思います。

(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』〈ダイヤモンド社〉を記念した対談記事です)

片田江康男(かたたえ・やすお)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。06年より「週刊ダイヤモンド」記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。21年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社)が好評発売中。
藤田知也(ふじた・ともや)
早稲田大学第一文学部卒業、同大学院アジア太平洋研究科修了後、2000年に朝日新聞社入社。盛岡支局を経て02~12年に「週刊朝日」記者。経済部に移り、18~19年に特別報道部、その後は経済部に所属。著書に『ルポ M&A仲介の罠』(朝日新聞出版)、『郵便局の裏組織 「全特」――権力と支配構造』(光文社)、『郵政腐敗 日本型組織の失敗学』(光文社新書)、『やってはいけない不動産投資』(朝日新書)、『日銀バブルが日本を蝕む』(文春新書)、『強欲の銀行カードローン』(角川新書)がある。

Key Visual by Kaoru Kurata, Kanako Onda