社喰い#13Photo by Yasuo Katatae

後継者不足を追い風に急成長したM&A仲介業界。その裏側では、社員たちに対する厳しい業績管理が、「数字」を最優先する組織文化を生み出していた。その象徴となったのが、2021年に日本M&Aセンターで発覚した不適切会計。新刊『社喰い』(著・片田江康男、ダイヤモンド社刊)から、驚きの手口を追ったルポを抜粋してお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)

「数字優先」の企業文化
追い詰められた現場で起きた不正

 事業承継という旗印のもとで急成長を遂げ、高収入ランキングの常連となったM&A仲介業界。高額なインセンティブ報酬制度を原動力に躍進を続ける一方、その裏では厳しい業績管理が現場を追い詰め、「数字」を最優先する組織文化が生み出されていたようだ。

 目標未達が許されない環境の中で、追い詰められた部長たちの一部は一線を越えた。

 日本M&Aセンターは、2021年12月に不適切会計が発覚する。

 当時公表された調査報告書では、厳しい業績管理によって部長や現場社員が心理的に大きな重圧にさらされていたことが原因の一つとして記されていた。

 同調査報告書によると、一部の部長たちは部署ごとの売り上げ目標を達成したと見せかけるために、本来M&Aの最終契約締結後に成功報酬として入金されるはずの仲介手数料を、入金されていないにもかかわらず売上高が立ったとする、偽りの報告をしていた。そうすることによって、課せられた目標が達成されたとしていたようだ。

 だが、当時の日本M&Aセンターでは、M&Aが成立し売上高が立ったことを証明するために、契約書の写しなどを社内システムに登録する必要があった。

 偽るには、本来“ない”売り上げを、“ある”売り上げとして報告しなければならない。 契約書類などは、どうしたのか。

同業者も驚く不正の手口
「チョキチョキ」「ペタペタ」

 驚くべきことに、日本M&Aセンターの担当者らは、顧客である売り手企業や買い手企業から別件で入手していた契約書の記名と押印部分をコピー。その部分を切り抜き、貼り付けるなどして、報告書類の偽造に手を染めていた。

 切ったり貼ったりするため、この偽造行為を「チョキチョキ」「ペタペタ」といった隠語で呼んでいたという。

 同調査報告書によると、これらの偽造を行ったのは80人以上。売上高の不適切な計上は83件に上った。

 日本M&Aセンターでは2021年10月時点で、M&A仲介業務に関わる営業担当者が561人だったため、約14%の担当者が不正に関わっていたことになる。

 あるM&Aアドバイザリー会社の幹部はこう言って呆れる。

「うちでそんなことやったら即クビ。あり得ない行為です。売り手企業と買い手企業はM&A仲介会社にとっては顧客ですよ。その顧客名義の契約書を偽造する会社って、どんな会社なんだと思います」