熊野氏(仮名)が代表を務める会社の本店所在地。ラブホテルが建っていたというが、現在は更地だった Photo by Yasuo Katatae
大切な会社を譲り渡した翌日から、多額の会社資金が外部へ送金され始めた――。M&A後、わずか4カ月で別の会社に転売され、その上に資金ショートへと追い込まれた誠美工業所(仮名)。流出した資金の行方を追うと、浮かび上がってきたのは不可解な企業と謎の人物たちだった。新刊『社喰い』(著・片田江康男、ダイヤモンド社刊)から、企業買収のトラブルに関する箇所を抜粋してお届けする。(ダイヤモンド編集部副編集長 片田江康男)
買収4カ月で資金ショート
2024年8月、創業家の一員である三浦英成氏(仮名)が率いてきた誠美工業所(仮名)は、マイスホールディングス(大阪府)に買収された。
買収後、まず行われたのは会社資金の移動だった。
誠美工業所が提出した訴訟資料によると、まず買収翌日の8月16日、「マイスホールディングス」に対して会社口座から合計4000万円を送金。
その後約4カ月の間に移動された資金は、誠美工業所の子会社の口座と合わせて合計5055万円に達していた。
会社資金を送金されたことで、急速に経営が悪化した誠美工業所は、買収から約4カ月後の2024年12月末には、取引先への支払いができない資金ショートに陥っている。
当時について創業家の一員であり、元オーナー社長の三浦氏はこう振り返る。
「2024年の年末は従業員や、お世話になっている取引先への事情説明に追われていました」
三浦氏はマイス社に買収された時点で、会社の口座情報をマイス社側へ渡し、資金の管理はマイス社側へ任せていたと話す。そのため、日々の出入金について感知することはできなかったという。
子会社の資金を親会社へ送金させ親会社側で管理する経営手法や、親会社が子会社への経営指導料を徴収するやり取り自体はあり得ることだ。
だが、深刻な事態に気が付いた三浦氏は、取引先への支払いのために資金繰りに奔走。さらに、どこにカネが抜けたのかを調べ始めた。
しかし、ない袖は振れない。取引先に支払いを待ってもらうように、事情説明を繰り返すことくらいしかできなかった。
そこで、マイス社による買収から約半年後の2025年2月10日、三浦氏はマイス社と代表である田端弘文氏(仮名。本書では実名)、そして同社の関係者とみられる個人ら合計7者を相手取り、損害賠償を求めて提訴した。
三浦氏はこう話す。
「お金を抜き取られてしまったので、支払いができなくて大変でした。社員にも取引先にも申し訳なくて……。会社のシャッターを閉めて、塞ぎ込んでいました」







