業績、株価、賃金、就職… 5年後の業界地図 AI格差で序列激変!?#16Photo:gentlelight/gettyimages

世界的な薬価引き下げ圧力など外部環境が厳しい中、5年後の医薬品セクターの勢力図はどうなるのか。問われるのは各社の新薬開発力である。「パイプライン(新薬候補)」次第で、業績や株価を飛躍させることができるのが医薬品セクターだからだ。特集『業績、株価、賃金、就職… 5年後の業界地図』の#16では中外製薬、武田薬品工業、第一三共、大塚ホールディングスなど主要企業の戦略や新薬の開発状況を解説。4社以外にもこのままでは沈みかねない企業や、注目の中堅企業についても具体名を挙げて紹介する。(ダイヤモンド編集部 篭島裕亮)

大塚がIgA腎症治療薬で躍進
第一三共を抜いて時価総額3位に

 中外製薬は首位を堅持も横ばい推移で、武田薬品工業の評価が上昇。大塚ホールディングスが大躍進する一方、第一三共が急失速。医薬品セクターの直近1年の時価総額の推移を振り返ると各社で明暗が分かれている。

 後述するが、武田薬品には変化の兆しがあり、中外製薬は経口GLP-1受容体作動薬のオルホルグリプロンに対する見方が分かれている。第一三共は期待されていた次の超大型がん治療薬に対して不安感が台頭しており、大塚ホールディングス(HD)はIgA腎症治療薬への期待が高い。

 下図は医薬品セクターの主要企業の時価総額の推移だ。この数年、中外製薬、武田薬品、第一三共の3社が時価総額首位を争っていたが、大塚HDが第一三共を抜き去り3位に上昇している。各社の状況が株価に反映されているといえるだろう。

 株式市場では医薬品セクターは景気変動の影響が小さい「ディフェンシブセクター」に分類されている。医薬品は不景気でも需要が落ちにくく、今年、来年の業績見通しについても事前予想が大きく外れないことが多いからだ。

 だが、中長期の業績変化という視点では、医薬品は個別性が強い業界である。業績はマクロ環境次第という業界も少なくない中、冒頭で書いたように医薬品は各社で明暗が分かれやすいセクターだ。

 医薬品企業の評価や投資については、二つのポイントを確認したいと野村證券の松原弘幸アナリストは指摘する。

「新薬候補である“パイプラインの充実度”と“主力品のパテント切れ”が重要になる。パイプラインについてはピーク時の売上高など薬のポテンシャルや開発ステージ、競合の状況も確認したい。外部要因を挙げるならば、米国のトランプ政権の医療政策の動向も押さえておくべきだ」(松原氏)

 有力な薬であっても、いずれは特許が切れる。そのため常に有力な新薬候補が必要になる。特に「パイプラインに最終段階のフェーズ3(第III相臨床試験)の有力な薬があるかどうか」がポイントになる。

 また、医薬品業界では特許期間の終了により売上高が激減することを「パテントクリフ(特許の崖)」と呼ぶ。有力な薬であるほどパテント切れの影響は大きくなるわけだ。

 個別性が強いセクターではあるが、業界環境についても確認しておこう。

 大和証券の橋口和明シニアアナリストは「医薬品の研究開発の難易度が上昇しており、新薬開発コストが増加。研究開発の生産性が低下している」と指摘する。

 半導体の世界には性能が2年程度で2倍になる「ムーアの法則」があるが、医薬品は9年間で研究開発費が2倍に上がる「逆ムーアの法則」が指摘されているほど構造的に厳しい状況にある。比較的開発しやすい分野の薬はすでにあり、がんなど難易度の高い領域や希少疾患に挑む必要があるからだ。

 一方、UBS証券の関篤史アナリストは今後3年、5年を考えるとAIを活用した創薬に期待できると指摘する。

 創薬を鍵と鍵穴に例えると、穴にぴったりはまる鍵を作り出すプロセスが難しいと言われている。複雑な計算をする必要があり、時間も費用もかかる工程である。

「AIや量子コンピューターなどの活用により、鍵を作り出すプロセスの開発期間やコストの大幅な効率化が期待できる。課題があることは事実だが、生産性が改善され、各社のパイプラインが充実して収益化につながる可能性がある。逆に言うと、きちんと取り組んだ企業とそうでない企業で明暗が分かれてくることも考えられる」(関氏)

 では、今後5年間、グローバル競争を勝ち抜いて業績や株価を大きく伸ばす企業はどこか。

 次ページでは、承認取得が進行中の大型薬の具体的な名前や各社の明暗について、企業名を挙げて分析。専門家の見解が分かれている部分については複数の見方を紹介しながら、時価総額上位の4社はもちろん、ダークホース的な中堅企業やこのままでは厳しい状況に追い込まれかねない企業についても具体的に明らかにする。

図表:5年後の医薬品業界(サンプル)