33億円で買収→100万円で売却
オーナーの判断に取締役会は…
上田氏の経営者としての能力に疑問符が付く大きなきっかけとなったのが、全国で脱毛サロン「ミュゼ」を展開するミュゼプラチナムの買収だ。
ここから船井電機は、坂道を転げ落ちるように凋落していく。
2023年3月末に船井電機は船井電機ホールディングス(HD)を立ち上げ、持ち株会社体制に移行していた。持ち株会社体制は、M&Aによる事業の多角化がしやすくなるなどのメリットがある。上田氏は、M&Aによって船井電機の収益源を多角化し、経営再建を進める考えだったのだろう。
ミュゼの買収は、その第1弾だった。
しかし、当時のミュゼは毎期巨額の赤字を垂れ流す問題企業。取締役会ではミュゼ買収について反対意見があったという。元取締役は次のように打ち明ける。
「みんな反対していたと思います。実際、私は最後までミュゼ買収には反対でした」
だが、上田氏は株主であり社長でもある絶対権力者。最終的に船井電機はミュゼ買収を決定。2023年4月、船井電機HDは、買収のための受け皿会社を通じてミュゼプラチナムの全株式を取得し、子会社化した。
買収資金の33億円は横浜幸銀信用組合(横浜幸銀)からの借り入れで賄い、この借り入れに対し、船井電機は連帯保証している。受け皿会社を使う手法は、秀和システムや、船井電機の買収と同様だ。
ミュゼを買収した理由について、私の取材に対して上田氏は次のように説明した。
「船井電機のテレビ事業を補完する意味で、美容家電事業を柱の一つに据える目的でした」
30億円以上の資金を送金
ミュゼは穴の空いたバケツか
ただ、美容家電事業が柱の一つとなることはなかった。
さらにミュゼは、とめどなく運転資金が必要で、船井電機は再三にわたり、億を超える資金を送金せざるを得ない状況に直面してしまう。
まるで、穴の空いたバケツに水を注ぐような状況に引きずり込まれたのだ。
資金を送り続けたことについて、上田氏は次のように釈明した。
「船井電機のグループ内で破産する企業が出てしまうと、レピュテーション(注:評判)の問題になります。そこで運転資金をかなり投下していました」
確かに、子会社が破産すれば、銀行などの債権者や、取引先からの信用を失う。
内部資料と複数の関係者の証言などを総合すると、ミュゼ買収後、船井電機と持株会社の船井電機HDから、少なくとも30億円もの大金がミュゼやその関係会社へ貸し付けられるなどしたことが判明している。
当時の船井電機は赤字だ。この送金が船井電機の資金繰りにどのような影響を与えるか、予想できなかったのだろうか。
だが、運転資金の送金も限界に達したのだろう。船井電機の資金を吸い続けるミュゼを、上田氏は買収から1年も経たないうちに売却している。
さらにどういうわけか、船井電機HDと船井電機、上田氏には、ミュゼ関連の連帯保証が残ってしまった。
ミュゼの買収と売却、30億円に上る送金、残ってしまった連帯保証。船井電機の事業多角化のためとはいえ、ミュゼを買収したのは、悪手中の悪手。
船井電機元取締役の評価は手厳しい。
「コンサルタントだったから、財務に強いとか、たまに鋭い指摘をしたこともあったと思います。でもメーカーの経営については『あれ?』って思うことはありました」
買収を重ねた末にたどり着いたミュゼ。その一手は、再建を託された船井電機にとって、あまりにも高くつく買い物となった。それどころか、船井電機はさらなる混乱に巻き込まれていく。
(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』(ダイヤモンド社)を抜粋・編集した記事です)
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。
Key Visual by Kaoru Kurata, Manami Kanemura







