佐藤優 知を磨く読書Photo:JIJI

最前線で働くビジネスパーソンが押さえておきたい、時代の変化とその背景を理解する上で欠かせない注目書籍を、作家で元外交官の佐藤優さんが厳選する。佐藤さんも大いに共感した、楽しく元気に「老いる」秘訣とは?ナチズムや帝国日本に関わる書物を読み解き、いま改めて考えるべきこととは?政治に失望した人こそ問い直したい、民主主義の基礎となる「政治」とは?『年とる力』『戦争の世紀を読む』『政治とは何か』の3冊から「ここだけは読んでほしい重要な箇所」を紹介する。(作家・元外務省主任分析官 佐藤 優)

大いに共感を覚えた
楽しく元気に「老いる」秘訣

 阿川佐和子著『年とる力』には、66歳になり高齢者の仲間入りをした評者にも多々共感できるエピソードがある。

『年とる力』書影阿川佐和子著『年とる力』文春新書、2026年5月刊行

 阿川氏は70代で俳句を始めた。句会では作者の名を伏せて作品を選ぶ。自分の句が選ばれるかどうかを待つ胸の内を、こう記している。

〈ところが、自分の作った七句のうち、一句も選ばれなかったときの悲しさかな。反対に、一句でも選ばれたときの嬉しさかな。そこがこの句会のいちばんの盛り上がりポイントです!

ちなみに、その場では全員が俳号で呼ばれます。だから、自分の句が選ばれたときは俳号で答えます。

『はい、騒子(さわこ)!』

 私は静かに名乗るどころか、両手を上げて狂喜乱舞します。だってその方は私が作ったとは知らずに選んでくださったのですよ。句そのものの力が認められたということです。そこには下心も忖度も介入しないわけです。嬉しくなるのも無理はありません〉(102ページ)

 名前を知られた書き手にとって、名を伏せた句が選ばれる喜びは格別だろう。選ばれなければ悔しい。その両方を味わえるのは、阿川氏が初心者として句会に加わったからである。年齢を重ね、実績を積んでも、新しい場では教わる側に戻れる。

 本書で阿川氏は体力の衰えや自分の見えを隠さず、笑いに変える。老いの達人を演じるのではなく、思うようにならない自分を抱えたまま、俳句の次の一句を楽しみにする。「年とる力」とは、若さを保つ能力ではない。変化した自分に、まだ知らない喜びを見つける力なのだと評者は思った。