「自分は知らなかった」
食い違う関係者たちの証言
――『社喰い』の中で、ヒロタ氏は東京・五反田の地面師事件についても触れていると思うんですけど。この中ではどういうふうにおっしゃってたんですか。
片田江:関係者への取材や『地面師vs.地面師』を読んで、ヒロタ氏が地面師事件に関わっていたのではないかということも知っていたので、ヒロタ氏本人にもそのことを聞いたんです。
ただ、ヒロタ氏は「自分はだまされそうになったから手を引いた」というスタンスでした。だから、ヒロタ氏がだます側だったのか、それともだまされそうになった側だったのかというのは、今の私の取材では断言できないし、分からないポイントだと思っています。実際に取材した感触としては、どちらもあり得るなと思いましたね。
ヒロタ氏に依頼された不動産ブローカーの方が現地に行って、土地のオーナーに成り済ました女性と五反田・海喜館の土地をぐるっと歩いたらしいんです。そのときに不動産ブローカーの方が、周辺の土地のことなどを成り済ましの女性にいろいろ聞いた。ところが、成り済ましの女性はほとんど答えられなくて、これは怪しいと思ったようです。それで不動産ブローカーはヒロタ氏に対して、「俺は降りるぞ。怪しいと思う」と伝えた。
この不動産ブローカーの方は、「ヒロタ氏は五反田の物件を買おうとしていたんじゃないか」と言っているんです。ただ、私が取引の状況やいろいろな証言を見たり聞いたりしても、ヒロタ氏がどちら側だったのかは、よく分からないんですよね。買い手だったのか、それとも地面師側、つまり詐欺的な行為をしようとしていた側にいたのか。そこはちょっと分からないなと思いました。
森:あくまでカミンスカスの言い分によると、ヒロタ氏は唯一、地主と連絡が取れる人間で、「地主と引き合わせてやれる」と。つまり、地主の代理人としてカミンスカスの前に登場してきているわけですね。
実際、捜査資料や判決の中でも、ヒロタ氏という名前は出てこないんだけど、ヒロタ氏の会社であるエマイユと内田マイクが打ち合わせをしている場面が一瞬出てくるんですよ。そこからは消えちゃうんだけど。ということは、少なくとも内田マイクとヒロタ氏は知り合いだろう。もう一人、主犯格とされる土井淑雄という人物が出てくるんですけど、土井はカミンスカスをこの事件に巻き込んだ人間で、カミンスカスは土井からヒロタ氏を紹介されているんです。
ちょっと複雑ですが、いろいろな人の証言をつなぎ合わせて最大公約数を取っていくと、おそらくヒロタ氏がこの事件に関わっていたことは間違いない。でも、結局ヒロタ氏は事件から外れているので、今でも「自分は知らなかった」と言い張るんだろうな、という気がしますね。
片田江:そうですね。私もヒロタ氏とショートメッセージでやりとりしているときに、本人から「長く不動産業界にいたので、ブローカーや地面師のような人たちとも知り合いだ」というようなことを聞きました。「その業界にいたので、いろいろ知っています」ということはにおわせているんですよね。
森さんの『地面師vs.地面師』にヒロタさんが出ていますよ、とヒロタ氏にメッセージを送ったら、すぐに「読みました」と返事をくれました。だから、森さんが書かれている内容はヒロタ氏も分かっていて、その上で私に「いろいろ知っています」と言ってきているんだと思います。
森:どう言ってました?
片田江:カミンスカス氏のことは、少し触れてましたね。
森:カミンスカスの手紙の中でも、ヒロタ氏と祝杯を挙げたとか、そういう場面が出てくるから。会って、じっくり話を聞きたいですね。
片田江:本当にそうですね。チャンスがあればぜひお会いしたいです。
(※本稿は片田江康男記者の新刊『社喰い』〈ダイヤモンド社〉を記念した対談記事です)
1961年、福岡県生まれ。「週刊新潮」編集部などを経て、2003年に独立。2008年、2009年に2年連続で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞作品賞」を受賞。2018年に『悪だくみ 「加計学園」の悲願を叶えた総理の欺瞞』で大宅壮一メモリアル日本ノンフィクション大賞受賞。最新刊『地面師vs.地面師 詐欺師たちの騙し合い』はベストセラー『地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』の続編となる。
記者。1979年東京都生まれ。2003年ダイヤモンド社に入社。2006年より『週刊ダイヤモンド』記者。これまで取材したテーマは東日本大震災後の東京電力問題や、大手生命保険会社における金銭詐取問題など。2021年からM&A業界を取材。M&Aのダークサイドに踏み込んだ『社喰い』(ダイヤモンド社刊)が好評発売中。
Key Visual by Kaoru Kurata, Manami Kanemura







