あわせて尋ねた「失敗できない場面ほど、部下や同僚に任せず、自分で仕事を片付けてしまう」に関しても、同様の傾向であった。
研修参加者の1人は、「今は失敗をさせる余裕が職場にはない」と嘆いた。業務のリードタイムは短縮し、やり直しの時間もコストもない。結果として、仕事を抱え込む上司の負担は減らない一方で、経験を積めない部下は育たない。育たないから任せられず、上司の負担はさらに増える。典型的な悪循環の発生である。
上司が疲弊するこのような状況では、部下の意見やアイディア、声を吸い上げたり、積極的に部下の学習成果を職場の業務に活用したりすることは、極めて難しい。
筆者が最近担当した別の研修でも、やはり複数の課長が「必要性は理解しているが、日々の業務管理だけで手一杯なのが現状。部下の提案を検討したり、部下の学習成果を適切に把握・評価したりすることは、到底できそうにない」と率直に語っていた。
つまり、現場の上司は、「初心者」を「熟達者」に育てるための支援をしたくても、そのために必要な時間も、心理的余裕も奪われているのである。「熟達者」や「上級者」どころか、もしかしたら「一人前」に育てることすら十分にできずにいるのかもしれない。
組織の中で多少出世しても、その処遇や報酬が劇的に上がるわけでもない。一方、負担や心労だけは確実に増える。こうした現実を前にすれば、管理職になりたがらない社員が増えるのも、無理からぬことだろう。
忙しそうにしている上司に
部下は気軽に声をかけられない
忙しすぎる上司に対して、部下が上司の業務負荷やストレスの多さを完全に把握することは難しい。しかし、「忙しそうだ」という空気だけは明確に伝わる。すると、多くの場合、部下は上司に遠慮し、自分の意見やアイディアを上司に伝えることを自主的に抑制してしまう。
リクルートマネジメントソリューションズが2021年に発表した「上司・部下間コミュニケーションに関する実態調査」(※注5)では、「直属の上司に言いたかったものの、言えなかったこと」とその理由を尋ねている。言えなかった理由として、「上司の気分を害するから(23.3%)」、「言っても聞いてもらえない(14.0%)」といった典型的な項目に並び、「話すタイミングがない(16.7%)」、「上司が忙しそうで気が引ける(16.3%)」が上位に挙がる。







