弊社のデータでは、「自分に厳しい」社員は、新しいプロジェクトに手を挙げる頻度が「自分に適度に優しい」社員の半分以下でした。挑戦を避けることは、短期的には「失敗の回避」として機能しますが、長期的には失敗から得るはずだった学習の機会が失われます。守りに入った時点で、成長スピードが鈍化するのです。

自分に優しい社員は
失敗からの立ち直りが早い

 心理学者クリスティン・ネフが提唱した「セルフ・コンパッション(自己への思いやり)」の研究によれば、自分への思いやりを持つ人は、そうでない人に比べて、幸福感・楽観性・自己効力感が高く、不安・抑うつ・完璧主義の傾向が低いことが明らかにされています(注1)。

 さらに重要なのは、自己批判よりもセルフ・コンパッションを持つ人の方が、ストレス耐性が高く、パフォーマンスが向上するという点です。

「でも、自分に優しくしたら甘えになるのでは?」という懸念を持つ人は多いです。しかし、セルフ・コンパッションは「失敗を正当化すること」ではありません。失敗を認めた上で、「次にどうするか」に素早く移行するための心の土台です。

 弊社の調査では、「自分に厳しい」社員と「自分に優しい」社員を比較したとき、失敗後の「行動復帰時間(再び生産的な業務に取り組むまでの時間)」は、後者の方が平均で41分速かったのです。自分に優しくする方が、より速く「次の行動」に移れます。

 5%社員(編集部注/人事評価トップ5%の社員を、筆者はこのように表現している)の81%は「自分に対して適度に優しい」と回答しています。

 ある5%社員は「自分を責めるのにエネルギーを使うくらいなら、そのエネルギーで次の行動を起こした方がいい。自分を責めても、誰の成果にもならない」と語りました。

 この言葉は、感情エネルギーの効率的な配分という観点から、非常に合理的です。30分自責に使った人は、その30分間、改善策には着手していません。「責めるか動くか」の二択があるという認識自体が、配分の選択を可能にします。

自分を責めずに立ち直る
「3ステップ」の実践法

「セルフ・コンパッション」を実践する具体的な方法は、難しくありません。

 失敗したとき、まず「これは誰にでも起こりうることだ」と自分に言い聞かせる(共通の人間性の認識)。

 次に「今、自分はつらい状況にいる。それは当然だ」と感情を認める(マインドフルネス)。

『17万人の分析データから導き出したトップ5%社員の感情に振り回されない習慣』書影『17万人の分析データから導き出したトップ5%社員の感情に振り回されない習慣』(越川慎司、ディスカヴァー・トゥエンティワン)

 そして「では、次に何ができるか」を考える(自己への優しさ)。

 3ステップの順序には意味があります。「共通の人間性」で「自分だけが落ちている」という孤立感を解除し、「マインドフルネス」で感情を認めて抵抗を止め、最後に「次の行動」に進む。順序が逆だと、行動を急ぎすぎて感情が処理されず、後から戻ってきます。

 弊社が11社で行った再現実験では、「失敗した自分に対して、友人に声をかけるように声をかける」という習慣を4週間実践した社員の69%が、「新しい仕事への意欲が高まった」と回答しています。

「友人にかける言葉を、自分にかける」というワークが効くのは、自分への基準が外部基準(友人への基準)に置き換わるからです。多くの人は他者には「大丈夫」と言えても、自分にはそれを言わない。そんな基準の違いを統一する効果があるのです。

(注1)Kristin D. Neff/2003年/Self and Identity, 2(3), 223-250
「自分への厳しさ」より「自分への優しさ」のほうが、不安・抑うつが低く、人生満足度が高いことを示した。本書「自分への優しさが生産性を上げる」の原典。
https://doi.org/10.1080/15298860309027