しかし、そうした対外的な表示行為をしないままに、現在まで累計約3兆6500億円ものODA(政府開発援助)を中国に付与するだけで、尖閣諸島についてあたかも「棚上げ合意」が存在するかのように振舞い続けてきました。
この行為に対し、英米法だけではなく、それを参照して日本でも中国でも採用される禁反言を適用すれば、今さら日本政府が「棚上げ合意」を否定することは認められません。その反射的効果として(逆説的に)、「棚上げ合意」は存在したという法的効果が生じ得ます。日本政府は外交上の約束は書面によらない限り無効と主張しますが、40年もの間、「棚上げ合意」が存在するかのごとく振舞った後でそのように強弁するのは権利濫用であり、それこそ無効だと反論されるでしょう。
禁反言の反射的効果として認定される「棚上げ合意」の中身は、文書がないだけに曖昧です。仮に具体的内容を与えるとすれば、鄧小平氏が述べるとおり、尖閣問題を友好的に解決するための「聡明な将来の世代が発見する良い解決方法」が出てくるまで、お互いに領有権を一方的に主張するのはやめる、という趣旨にならざるを得ないでしょう。
尖閣問題はしばらくの間、解決のしようがない
「棚上げ合意」の成立が、両国政府の「暗黙の了解」によるのか、禁反言の原則の反射的効果によるのか、という見方は別として、仮にその存在を認めるとしましょう。ともかく、2012年4月の都有化宣言から9月の国有化に至る一連の流れにより、「棚から下ろしてしまった」状態であることは間違いがありません。では、これをもとの「棚上げ合意」状態に戻すことが可能でしょうか?
結論から言えば、相当難しいと考えています。
現状に鑑みれば、鄧小平氏が期待した「聡明な将来の世代が発見する良い解決方法」をただちに出し合って、友好的に解決する術はない、と言わざるを得ません。それには次のとおり両国の事情が関わっています。