中国は強硬姿勢を崩せない
まず中国側の状況です。
ここでは三大タイトル(総書記、中央軍事委員会主席、国家主席)を独占する習近平氏が、尖閣諸島への対応を含めていかなる対日政策をとる意向であるのか、が最大の問題となります。少なくとも2013年7月時点までの対応を見る限り、胡錦濤氏と比較して、相当強硬な対日政策をとる意向は明らかに見えます。
その姿勢は、具体的な対象の名指しこそ避けたものの、(日本やフィリピンなどと)戦争になった場合には必ず勝てる準備を徹底せよ、と二大タイトル(総書記、中央軍事委員会主席)のみ手にした時点で、早くも人民解放軍に指示したことからも裏づけられます。習近平氏の心のうちには、人民解放軍を完全掌握できなかったと噂される胡錦濤氏の前車の轍を踏まないよう、一歩間違えると好戦的ととらえられかねないギリギリの強硬姿勢を示すことこそが、支持基盤を早急に固めるために必要だとの認識があるのかもしれません。
人民解放軍に対して積極的に戦争準備を促した結果、尖閣諸島には海からだけではなく、空からも領域侵犯を再三にわたり仕掛けてきています。2013年2月には中国軍艦が海上自衛隊の護衛艦に対して、攻撃に不可欠の準備行為として、射撃用の火器管制レーダーを照射(ロックオン)したことが問題になりました。一触即発の事態を招きかねないこうした行動が数分も継続したということは、仮に中国外交部に事前通知されることはなくとも、中央軍事委員会主席である習近平氏に知らされていなかったことはあり得ないでしょう。
また、仮に中央軍事委員会の主席就任直後に起きた混乱により、明確な事前通知がなかったとしても、部下がトップの対日強硬政策を忖度したことは確実であり、それなしに現場がただ暴走したと考えることには無理があります。このように習近平氏が対日強硬路線をとることが明らかである以上、話し合いによる平和的解決は当面難しいと考えられます。
付言すれば、中国人民の大半は「釣魚島」という名前すら知りませんでした。しかし、2012年8月頃からテレビ番組で「中国の領土である同島を国有化するという暴挙に出る日本はけしからん」という論調が連日あふれ、おびただしい数の抗日ドラマが放映されたことにより、中国人民の反日感情が国交回復後で最悪になったのは間違いありません。この感情が沈静化するには相当な時間経過を必要とします。
こうした中、習近平氏がリーダーになったばかりの不安定な段階で、日本に迎合する案を示すことなど、できようはずがありません。共産党のリーダーにとって、1980年代に日本の中曽根康弘元総理と仲良くしすぎた胡耀邦元共産党総書記がそれを重大な理由のひとつとして1987年に失脚した後、「日本と仲良くしすぎると、総書記といえども失脚する」というトラウマも根強いですから、日本がよほどの譲歩案を示さない限り、習近平政権が妥協してくる可能性は極めて低いでしょう。
新たな「棚上げ合意」を中国側が日本側に積極的に働きかけようものなら、その弱腰姿勢そのものが中国人民や左派(共産主義の中国では右翼ではなく、その対極である左派が保守派)から激しい攻撃の的となるでしょう。それはアメリカが中国の想定以上に日本を積極的に防衛する意思を示し、中国に対してこの問題の平和的な解決を促した後でも変わりません。2012年8月以降、あらゆるメディアを使って反日扇動したツケは、融和策が外交的に妥当であると判断される局面になろうとも、それができないという自縛効果となってあらわれているのです。