日本も引くに引けない状況に

 次に日本側の状況です。日本でも安倍晋三首相は、2012年12月の衆議院議員選挙前から再三にわたり領土を守る決意を表明し、この姿勢は首相就任後も一貫しています。現在は対中配慮から明言を避けていますが、尖閣諸島への公務員常駐案の検討を選挙公約にしていました。

 もっとも安倍首相は一方的にエキサイトする中国に乗せられることなく、あくまで冷静さを維持し、日中関係を好転させるための平和的な話し合いを行う機会を模索しようとしています。

 しかし、このことは尖閣諸島において領有権問題が存在することを認めて、ただちに話し合いのテーブルにつくことを意味しません。今の日本国民の圧倒的多数の感情を代弁すれば、「中国が滅茶苦茶な恫喝と領域侵犯を繰り返す中で安易に屈して、子々孫々にも影響しうる領有権問題について、その紛争の存在を認めて交渉のテーブルにつくことは、上場企業が反社会的勢力の圧力に負けてコンプライアンスを捨て去るよりもずっとひどい」というものではないでしょうか

 確かに話し合いによる平和的解決は、それに相応しい相互に気遣える雰囲気の中で模索されるべきものです。相手方に戦争準備の指示など暴力的、恫喝的な動向が見られる中で実施できるものではありません。日本側から安易に懇願調で話し合いの場を模索すれば、日本は恫喝すれば、いかなる不合理にも屈する弱腰な国である、という誤ったイメージが中国に定着しかねません。

 こうして日本側は「時間が経過し、中国側も日本側もこの問題について冷静さを取り戻し、アメリカなど第三者の仲介により平和的な話し合いの機会が設定され、またはいずれからともなくそのような機会を希求する雰囲気が醸成されるまで、ひたすら待つ」ことにならざるを得ないでしょう。しかし、その場合も日本政府は、「棚上げ合意」も領有権問題をめぐる紛争も初めから存在せず、尖閣諸島は日本の固有の領土であると何度も国民に向けて断言を繰り返しました。このため、いかなる平和的な話し合いの機会においても、これらの前提を覆すことはアメリカが仲介しようができるはずがありません。

 こうした両国の状況に鑑みれば、「賢明な将来の世代が発見する良い解決方法」がただちに出てくる環境には到底ないと思えます。日中国交回復交渉時に田中角栄首相(当時)に面談した毛沢東主席(当時)は、周恩来総理(当時)らとの交渉について「喧嘩は済みましたか」と尋ねたそうですが、尖閣諸島をめぐる両国の「喧嘩」がまだ当面継続することは確実です。今しばらく「喧嘩」を継続し、それがエスカレートして戦争になるなどの最悪の結果を回避するほうが両国の国益に資すると、それぞれの国民が納得する状況が生じない限り、「賢明な将来の世代が発見する良い解決方法」が出せる環境は整わないと考えます。

 だとすれば、今後しばらくの間、中国ビジネスを行うに当たって、「日本」「日本人」「日本企業」「日系企業」だからという理由で、継続的に反日リスクに直面することは確実です。それに向かう覚悟なしに中国ビジネスに従事することはできません。