品川女子学院では、28歳になったときに社会で活躍する女性を育てることを目標に、未来から逆算したさまざまな教育活動を行っている。名づけて「28プロジェクト」。
卒業生の10年先を考えるとき、社会の動きと無縁ではいられない。そのため、漆紫穂子校長は、ジェトロ(日本貿易振興機構)の視察団に参加したり、世界経済フォーラムの東アジア会議に出席したり、経営者との情報交換をするなど、努めて校外の動きを見聞するようにしている。
連載2回目では、そうした実体験を通じた日本の教育の危機意識を共有する。
砂漠の真ん中に
世界最大の女子大が誕生!?
昨年末、海外視察の一団に参加する機会があり、サウジアラビアを訪問してきました。
これまで私がもっていたイスラム国家のイメージを根底からくつがえす、目から鱗が落ちるような体験の連続でした。
サウジアラビアは世界最大級の産油国でありながら、資源が枯渇する未来を見据え、国家戦略として教育や人材育成分野、特に若年層の教育と女性の社会進出に力を注いでいました。
特に、目を見張ったのは教育政策です。
なんと、国家予算の4分の1を教育予算や職業訓練予算にあてているそうです。女子の高等教育のため、総工費約4300億円の女子大が砂漠の真ん中に建てられていました。
これは世界最大だそうで、託児所や病院なども完備した、ひとつの町のような巨大な大学です。
教育費は大学院まで無料。留学する際は、学費、渡航費、月約20万円の滞在費に加え、女性の場合は、付添いの家族の費用まで支給されるそうです。
ちなみに、ここからの学生が赤ん坊と夫を伴って日本に留学してきていると、一緒に視察に行った大学の方から聞いたので、この制度は実際に活用されているようです。
また、現地には「モヒバ」という教育制度があり、さまざまな分野で秀でた能力をもつ若者を選抜したうえで、最先端のエリート教育をしています。
偶然、視察とは別に、知人の紹介でモヒバに選ばれた現地の学生と直接話して感じたのは、「自分たちが国の未来を支えるのだ」という強い意志です。恵まれた自分の才能や環境を社会に還元するという高い志がありました。
子どもたちは卒業後、グローバル社会のなかで、こうしたさまざまなバックグラウンドをもつ国の人々と対等に仕事をしていかねばなりません。
日本の教育費のGDP(国内総生産)に占める割合は3.6%。OECD加盟国平均は5.4%で、わが国は比較可能な31ヵ国で最下位です。
語学力、ITスキル、ロジカルシンキング、エンパシー(共感力)……先進諸国の教育や、新興国のエリート教育を見るにつけ、将来ある子どもたちを預かる教育現場の人間として焦りを感じざるをえません。
その他、日本企業の現地法人で働く女性、インキュベーションセンターで起業を目指す女性、一人で子育てをしながら、内職を提供する施設に通っている女性など、様々な場所で、様々な立場で働く女性たちと接しましたが、女性を取り巻く環境が変化する過程にあることを実感しました。
帰国後、3学期の始業式では、現地で購入した、黒く足首まである衣装アバヤを着つつ、貴重な体験を生徒に紹介し、見聞したことは一面であるかもしれないというクリティカルな視点も押さえたうえで、「あなたたちのライバルも、一緒に働く仲間も、学校の中や日本の中だけではなく、世界中にいるのよ」と話しました。