2013年11月14日、「ネスレシアター on YouTube」の幕が開いた。著名な映画監督の作品をYouTube限定で無料公開。冒頭でネスレあるいはネスレの製品ブランドを表現してもらうのみで、作品の内容には一切の制限を設けない。なぜ、このような取り組みに至ったのか。そこには、常識を打ち破る戦略があった。記者発表で行われた、ネスレ日本CEOの高岡浩三氏と佐々部清氏、本広克行氏、月川翔氏と日本を代表する3名の映画監督による座談によって、従来の企業発信型の宣伝広告の課題、映画業界に生み出す大きな変化の全貌が明らかになる。
映画とブランドの新しいコミュニケーション
高岡 私は、ビジネスのいろいろなところでイノベーションが必要だと考えています。その1つとして、ブランドのコミュニケーションについても、既存の広告宣伝にとらわれないものを模索していました。
映画とブランドのコミュニケーションは、YouTubeのような新しいメディアの出現で変わったと思います。もちろん、コンテンツとしては、プロと素人の世界が混在はしていますが、たくさんの人がいつでもどこでも気軽にアクセスできることは確かです。それも無料で。
この変化によって、映画というコンテンツを、映画館だけで観る限られたものではなく、その何百倍、何千倍の人に観てもらえるのではないか。さらに、ネスレ日本としてブランドのコミュニケーションを追加することで、新しいビジネスモデルができるのではないか、そう考えたことが「ネスレシアター on YouTube」のきっかけです。
佐々部 僕は映画監督ですから、本当のことを言えば、YouTubeで配信するというお話をいただいたとき、抵抗感を持っていました。やっぱり、大きいスクリーンで見せる監督でありたいという気持ちがありますね。
ただ、現状の映画界は、オリジナル作品をなかなか撮ることができません。基本的には、原作ありきだったり、大ヒットテレビドラマだったりとなります。オリジナルで好きなことがやれることは、映画監督にとってとても魅力的でした。
本広 幸いにも、僕には『踊る大捜査線』というヒットコンテンツがあったこともあり、他の監督さんよりは自由にやらせてもらっている立場かもしれません。それでも、映画を取り巻く状況が変わっていることは、『踊る大捜査線』を撮りながらも感じていました。「これが終わったら、どうしよう……」と思いながら撮っていましたし。
それで去年、実際に終わってみると、どうしたらいいかわからない。そのときは、僕自身もYouTubeとかにショートムービーで挑まなきゃいけないのかなと思っていたところです。そんなタイミングでネスレさんからお話をいただいたので、「ありがとうございます」って感じですね(笑)。