厚生労働省の健康情報サイトによれば、日本人の5人に1人が何かしら「不眠の悩み」を抱えているらしい。「早朝に目が覚める」「夜中に頻繁に起きる」など症状はさまざま。しかし、なかでも特に危険な症状があるようだ。
米国では、1988年から男性の医療従事者を対象に、ライフスタイルと疾患との関係を分析する追跡調査「Health Professionals Follow-up Study:HPFS」を実施している。今回、米国の研究グループが、HPFS参加者のうち、「不眠症」と自己申告した2万3447人を追跡調査した。
追跡期間の2004~10年の間に、2025人の死亡を確認。ライフスタイルや年齢など、死亡に影響を与えそうな因子を排除し、あらためて不眠の症状と死亡率との関係を分析した。その結果、ベッドに入って30分~1時間以上過ぎても眠れない「入眠困難」、もしくは、いくら眠っても疲労感がとれない「非回復性睡眠(NRS)」を訴えた男性は、それ以外の不眠症状がある男性よりも全死亡率が悪化した。特に心疾患で死ぬ確率は、それぞれ55%(入眠困難)、32%(NRS)も上回っていたのである。
入眠困難はお馴染みだが、耳慣れないのはNRSだ。こちらは一般的な不眠症と一線を画す疾患として最近、注目されている。米国立精神衛生研究所の調査によると、NRSの患者は若年層に多く、身体のあちこちで炎症反応が高進しているらしい。不眠症状がない人と比べ、睡眠時無呼吸症候群や肺気腫、慢性気管支炎などの呼吸器疾患、さらにはがんを併発する可能性も高くなるようだ。今回の追跡調査の研究者は、特定の不眠症状が「寿命を縮める」可能性を指摘している。
病的な不眠症の定義は「睡眠問題」が1カ月以上続き、日中の活動に影響を与える、というもの。この「日中の活動障害」が病的か否かを見分けるポイントだ。特にNRSは、精神的というより身体からのSOSに近い。いくら寝ても疲れがとれない、だるい日々が続く場合は、命をすり減らす前に専門医を受診したほうがいい。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)