日本人が米国で創業した製薬ベンチャーが2月13日に上場した。マザーズへの米国企業の単独上場第1号。初値は公開価格を約3割上回った。

アキュセラ・インク会長・社長兼 <br />最高経営責任者 窪田良 <br />目のアルツハイマー病を治すくぼた・りょう/1966年生まれ。慶応義塾大学医学部卒業、博士号取得。大学院時代に緑内障原因遺伝子を発見。同大学病院や虎の門病院で眼科医として勤務した後に渡米し、米ワシントン大学医学部で助教授。2002年にアキュセラ・インク設立
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――「目のアルツハイマー病」と呼ばれる加齢黄斑変性を治す飲み薬「エミクススタト」が開発の最終段階です。日本で起業してもここまでたどり着けましたか。

 自信はありません。ヒト・モノ・カネのうち、日本でカネを確保しましたが、それ以外は無理でしょう。米国だから、名もないベンチャーに優秀な研究者や財務の専門家らが参画してくれたんです。人事部機能などは専門のベンチャーにアウトソースできました。ベンチャーにとっては米国の方がはるかに環境は整っています。

 米国社会では、リスクをとって起業したり、ベンチャーに勤める人は尊敬されます。むしろ、大きい企業に属している人は勇気が少ないと思われる。能力が高い人が集まらないと達成し得ないことにベンチャーは挑戦するわけですから、能力が高い人がベンチャーに集まりやすい環境が必須です。

 人間には人に必要とされたいという根源的な思いがあり、さげすまれたくない、尊敬されたいという欲求があります。社会がベンチャーに温かいから苦労や困難に耐えてもう一歩進もうと奮い立つことができる。子供のクラスメートの親御さんも敬ってくれますから、家族に肩身の狭い思いなんてさせません。制度や仕組みだけでなく、こうした文化的な部分がとっても重要。

――なぜ日本で上場したのですか。

 米国は人材を確保できても、資金集めにはもう一段信用が必要。私の米国在住歴がまだ浅いことや、医者としてのトレーニングしか受けていなかったことがネックになりました。経営はその道のプロに任せて、私は研究に専念するという条件で資金を出すという話はありました。でもね、自分の運命は自分で決めたい。自ら経営することを譲りませんでした。

 そもそも、当社は創業からずっと日本企業が投資してきてくれた会社で、日本で上場するという考えが最初からありました。2008年には大塚製薬が共同開発パートナーになりました。