しかし、だからといって、そこで諦めてしまってはいけません。自動発注システムに販売現場のスタッフが自分たちで工夫を加えるようになると、次第に欠品がなくなり効果がはっきりと見えてくるようになりました。仕組みを抜本から見直すためには、効果が出るまで徹底的にやり続けるしかすべはありません。社風を変えるのと同じぐらいの労力を費やしたと思いますが、意識だけ変えるのは無理ですから、やはり仕組みの変革からは逃げられません。

全13冊、2000ページに及ぶ
業務マニュアルで仕組みを作り直す

桜井 経営会議でお題目だけ唱えていても、意識も仕組みも変わらないというのは、その通りですね。

「MUJIGRAM」の一部

松井 現場の“仕組み”づくりにおいては、2種類のマニュアルも作成しました。1つは本部の仕事の手順を示した業務基準書で、もう1つは「MUJIGRAM(ムジグラム/写真)」と名付けた社員およびパート・アルバイト向けの業務マニュアルです。こちらは業務別に全13冊から構成されていて、すべてを合わせると2000ページに達する膨大な内容です。レジ打ちから売り場のディスプレイ、経理、労務、配送などいったあらゆる業務を網羅していて、図や写真をふんだんに用いながらわかりやすく詳細に、「無印良品」ブランドを維持する業務の仕組みをすべて明示したものです。

桜井 そのマニュアルを見れば、ノウハウが属人的にならず、入ったばかりの新入社員やアルバイトでも「無印」のイメージを壊さないレベルで業務をこなせるようになるわけですね。松井会長は「優秀な人材を採用する以上に、教育も重要」と著書でも書かれていましたが、幹部育成にはどのような仕組みを敷いておられますか。

松井 異動・配置を検討する「人材委員会」と、研修などを計画する「人材育成委員会」を設置しています。このうち、「人材委員会」は適材適所の配置を実現するための仕組みで、誰にどういった経験をさせて成長を促すか、半年に1度トコトン話し合って定期異動に反映させています。その際に用いているのが、「ファイブボックス」という評価ツールです。米国のGEが考案した「ナインブロック」にウォルマートが改良を加えたもので、さらに当社向けにアレンジしました。

桜井 それはどういったツールなのですか? どのような効果があるのでしょうか。

松井 横軸を潜在能力、縦軸をパフォーマンスの座標軸とし、それぞれ1〜5象限に分け、個々の役職者候補の特性に基づいて該当するボックスに振り分けていきます(図)。その作業を通じて個々の人材を的確に評価できるばかりか、現幹部の後継者が明確になっていきます。「神は細部に宿る」と言いますが、企業では「福は全体から来る」と思うので、人事というのは、あくまで全体最適をとりながら、個々人の経験を積ませていくものでなければいけません。人材という資産を継続的に活かす目的で、この「ファイブボックス」を導入しました。