「無印良品」は、利用者が自由な発想で使えるシンプルさと品質の高さという、バブル時代の象徴だった高級ブランドとは対極のコンセプトで、瞬く間に世の中の支持を受けました。今や海外でも260店舗を展開し、グローバル化を進めていますが、その道は苦難の連続だったとか。同じく逆境の中でうまれた純米大吟醸<獺祭>も、その本質を高めて世界で勝負したいといいます。無印良品を率いてきた良品計画・松井忠三会長に、<獺祭>を展開する旭酒造・桜井博志社長が、ブランド維持や人材育成の要諦を聞きました。
抜本的な改革に乗り出すと、
内部で順法闘争が発生する!?
桜井 10年間もの増収増益という快進撃が止まってしまったとはいえ、すぐさまその原因を解明されたところはさすがですね。社長に就任された2001年度を底として、わずか1年でV字回復を達成されました。
松井 いえ、それは業績が落ち込んで初めて、その原因を考えたわけです。不振に陥った当初は混乱の極みで、責任の押し付け合いも始まり、たとえば衣料品部門の担当部長は3年間に5回も交代するという“異常”事態でした。
人間の意識改革といっても、意識から変えるのは本当に至難の業で、まずビジネスの仕組みを再構築してこそ、そこで働く人の意識が変わるものです。私は西友に在籍した18年間のうち15年を人事部で過ごし、幹部の意識改革プログラムなどをやっても全く成果がなかった経験から、それを痛感していました。
ところが、じゃあビジネスの仕組みからまずは変えよう!と始めると、順法闘争(合法的にストライキと同等の効果を狙う労働闘争戦術)を仕掛ける人が内部から必ず出てきます。たとえば、店内の全アイテムで約半数〜3分の1が欠品して機会損失を起こしていたため、自動発注システムの導入に踏み切ったときのことです。当時、欠品の要因の約2割は供給遅れなど本部側の問題でしたが、残る約8割が店側の発注に問題があったための決断でした。しかし、自動化されると今まで発注を任されてきたパート社員は発注権限を一切失うため、「(仕事の面白みを奪われて)可哀想だ」という声が社内で飛び交ったのです。
桜井 確かに、発注担当者は、倉庫や店頭の在庫をチェックし、さらに売れ行きなどを踏まえて自らの判断で注文を入れるという作業に大きなやり甲斐を感じてきたのでしょうが、そこまで欠品している状況で「可哀想」といわれても会社としては困りますね…。
松井 しかも、自動発注システムにも欠陥がありました。過去と直近の売れ行きを加味して自動発注するシステムだったのですが、前年実績に天候や特売実施など特殊要因による異常値があっても、それを除くほど精緻には予測をしてくれません。その結果、導入当初は人間の予測をはるかに下回る発注しかできず、納品がメチャクチャになって批判が相次ぎました。