納税で慌てないためにも月次決算を

田中 きちんとできるかどうかで、とんでもない額のお金が吹き飛びますからね。ところで、利益は毎年きちんと出ているけれど、なぜか納税する月になるとお金が足りない、どうしましょうという話は中小企業ではよくありますが、先んじて打つべき手を何かアドバイスすることはありますか?

石本 飲食店など設備投資で先にお金が出て行く業界の会社では、よく問題になる話です。会計上の利益は出ている(=税金が発生する)のだけれど、それは設備投資が先行してその減価償却をしているからで、キャッシュフローは大赤字。だから、なかなか納税額をプールできないということですね。

田中 そういう業界の会社は、往々にしてお金がちょっとでもあれば、次々に新しい店を出し続けていて、納税資金は手当できていません、というケースが多いのでしょうか?

石本 はい。そこで慌てないために重要になってくるのが月次決算です。

田中 この連載では、示し合わせたかのように、月次決算の重要性をみなさん強調されます。

石本 「決算を締めたら利益が出ちゃいました」という会社では、そういうことが起こるので、毎月いくら利益が出るのかを把握するため月次決算をします。納税予定額がきちんとわかるように法人税を未払計上しましょう、という月次決算がいちばん有効です。あとは納税資金をプールしておくために銀行で納税用の定期積金口座を開いて毎月資金を振り替えている会社も多いですね。あと、もうひとつ、消費税の納税資金をどうするか、という準備も必要になります。

田中 そうですね。法人税と違って、消費税の納付は頻繁に来ますものね。

赤字でも発生する消費税。税込み経理にも注意する

石本 法人税は赤字の会社は支払う必要はありませんが、たとえば、人材派遣業のように人件費が多い業種は赤字でも消費税の納付は発生することが多いんですね。この消費税の納税資金のことをすっかり忘れている会社が結構あるんです。このことをさらに助長するのが税込経理という会計処理です。税込経理にしていると、税理士が税額計算をするまでは帳簿を見ても消費税の金額がどこにも見えないから怖いんですよ。

田中 要するに納付額がわからないわけですね。

石本 税理士に帳簿を渡して計算された消費税の納付額を社長さんが見て「え!うそーっ?!」なんて驚くことは、よくあります。

田中 お客様から受け取る消費税は、本当は単なる預り金なんだけど、税込処理で売上に計上されていると、あたかも自分のお金だと勘違いしてしまうわけですね。

石本 わからなくなっていますね。でも、中小企業だと会社側も税理士も税込処理でやっているところが多いのが実態です。

田中 それは手間が面倒だからですか?それとも、売上を大きく見せたいからですか?

石本 社長さんとしては大きく見せたいという気持ちがあるでしょうね。税理士側としても期中に税額計算をするのは面倒なのであまり深く考えたくない、という気持ちがあると思います(笑)。私は、クライアントごとに、業種や規模、キャッシュフローの状況に合わせて月次決算や納税資金の積み立て、それに、税抜経理をお勧めしています。

保田 消費税といえば、ちょうど5%から8%に上がりますし、1年半後には10%まで上がりますよね。

石本 だから税務の知識の中でも圧倒的に消費税の知識が大事になってきていると思います。今まで、会社は法人税の節税に一生懸命でした。ただ、法人税の税率は諸外国の影響を受けて、これからどんどん下がります。一方、消費税の税率は上がっていきます。そうすると、法人税に関する知識の価値は下がっていき、消費税の知識に関する価値は相対的に上がっていきますから、私のような専門家の価値が上がるんですね。法人税は詳しいけど、消費税はあまり知らないという経理部長さんは多いのです。


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