赤字会社の社長でさえ節税が気になる
石本 そして第1位は、やはり節税の話題ですね。「何か、いい節税方法はないの?」というのは、そもそも赤字で税金を払っていない会社の社長さんからも聞かれるくらいです(笑)。そんなこと考えている場合ですか?と思うくらい、「節税」という言葉が独り歩きしていますね。未上場で上場を目指さない会社の場合、いわゆる企業会計原則なんてどうでもいい話で、意識されているのは税金がいくらになるんですか? ということが一番なんです。
保田 「節税」というと、基本的には、費用の認識の仕方、タイミングというのが一番大きいわけですか?
石本 どこまでの範囲が会社の経費として認められるか? という相談が多いですね。
田中 いまだに中小オーナー企業・ベンチャー企業の社長さんは「節税」という言葉に弱くないですか?
石本 弱いですね。とりあえず「節税」と聞けば、赤字企業の社長さんでも喜んで話を聞きますというところはありますね。赤字にもかかわらず(笑)。
田中 私は節税思考の強い経営者さんに毎回伝えているんです。節税したい気持ちはわかるけど、利益を圧縮する、つまり、経費を支出したら、たしかに税金は減るかもしれないけど、その分キャッシュも外へ出て行くから手許のキャッシュが減ってしまいますよ、と。世の中の経営者さんが「節税」という言葉に弱いから、保険とか節税に関連したあやしい商売が成り立つのですが、どう思いますか?
石本 そうですね。保険に関して昔はパラダイスみたいな全損保険(支払保険料の全額が損金として認められる保険)がたくさんありましたが、保険会社の利権に近かったのではないでしょうか。営業マンも適当なケースが多く、経営者は誤解しているケースも多いのですが、節税といっても、保険料を支払ったときには節税できてもキャッシュは一旦出ていきますし、満期返戻金が戻ってきたときはまるまる利益として税金がかかるので結局課税の先送りにしかなりませんね。この辺を誤解をしていて、最終的には保険に加入しなかった際と比較して、税金は多くなり、保険会社には無駄な保険料を支払ってしまっている方も多いですね。
田中 だから節税といっても、減価償却の方法を定額法じゃなくて定率法にするとか、設備投資して受けられる税制上の特典を受けるようにするとか、そういう基本的なレベルのアドバイスをきちんとすることが大切ですよね。
石本 そうですね。税法は、複数の選択肢を用意しておいて、企業に選ばせてあげるよというスタンスをとっているケースがあります。その選択肢の中から最も税金が少なくなる方法をどう選択するかは企業の自由です。ここは税理士の腕の見せどころです。一方で、税法が予め想定していないやり方で節税を試みる場合には、当局側に租税回避行為とみなされる可能性があります。但し租税回避行為とみなされるかどうかは、本当に微妙ですから我々税理士も一番気を使うところです。