シリコンバレー化する世界
――企業とNPOの協業が真のイノベーションを生む!
――今回いろいろなお話を伺うことで、世間でよく聞く「営利企業と非営利組織」を分けて考えるのが何だか時代遅れのように感じてきました。
中村 僕もそう思っています。一方で、途上国支援の文脈では、非営利団体の活動はダメで、「ビジネス」として貧困削減をしていかなければならない、という論調を最近よく聞きます。ビジネスで貧困を解決する、という主張ですね。
しかしこのビジネスかチャリティーかという論争は、まったくもって不毛です。これまで紹介してきた通り、ゼロサムゲームではなく、いかに各プレイヤーができる役割を果たしていくか、そしてそれぞれの間にある垣根を越えていかに協業を深化させていくかが、イノベーションを加速させていくうえで大きなカギになります。
――それぞれがそれぞれの役割を、というのが大事ですね。
中村 企業は引き続き、途上国の問題をより理解しながら、イノベーションを起こしていく。NPOは企業の論理・文化への理解を深めたうえで、現地のニーズやネットワークを提供し、企業とのさまざまなパートナーシップを結んでいく。コペルニクが実現しているハイブリッド・バリュー・チェーンはその例です。
そして、政府は、国民が持続可能な発展を遂げていくなかで、民主主義の確立、法の支配、基本的教育水準の向上、医療サービス、エネルギーなどインフラの整備、そして実際に見たように、さらに踏み込んで途上国向けイノベーションを直接支援することもできます。
大学はリスクの高い研究に取り組むことが可能で、さまざまなアイデアのインキュベーションの場となることが可能です。
――何だか未来は明るいんじゃないか、という気がしてきました!
中村 貧困の解決というと「大変なことをやっているんですね」と言われることが多いんですが、新しいイノベーションが生まれていくダイナミズムの中で仕事をしていると、とても可能性を感じています。
イノベーションを起こすためにさまざまなプレイヤーが手を取り合うさまは、まるで「シリコンバレー」です。ビジネスだけではなく、NPOだけでもない。大学だけでもなく、政府だけでもない。NPO、企業、大学、資本家、財団などがそれぞれの役割を果たし、「途上国向けのイノベーションの生態系」を築いています。これはまるでイノベーションの聖地と言われるシリコンバレーで、投資家、起業家、大学が築いている関係とそっくりではないでしょうか。
結局のところ、途上国向けのテクノロジーという「真のイノベーション」の担い手は、これらのプレイヤーすべてだということになります。今これを読んでくれている方だって、担い手の1人だといえるんです。
――これからどんなイノベーションが日本から生まれるのか、楽しみになってきました。中村さん、本日はありがとうございました!
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