もしベンチャーキャピタルが短期的なイグジットを目指さなかったら?
――事例2 アキュメン・ファンドが見つけた新しい投資のかたち

中村 「ベンチャーキャピタル」と聞いて何をイメージしますか?

――リスクをとって、会社を成長させ、イグジットによって莫大な収益を上げる、という感じでしょうか?

中村 ええ、多くの場合はそうだと思います。でも、短期的なイグジットを目指していないベンチャーキャピタルがあるとすればどうでしょう。

 アキュメン・ファンドは、フィランソロピーの資金(要するに寄付)を集め、これを途上国の問題を解決する会社に対して投資するという活動を行っている非営利の団体です。お金の元手は個人や財団の寄付で、投資先は途上国ビジネス。

 アキュメン・ファンドの設立者ジャクリーン・ノボグラッツは、寄付を使うことにより、より柔軟で返済期間の長い投資をすることができるとして、これを「ペイシェント・キャピタリズム」と読んでいます。これは、貧困層の自立に長期的に付き合うことができる「忍耐強い資本主義」とでもいうもの。リターンを見込んだ投資家から出資を集め、短い期間でのイグジットを目指すベンチャーキャピタルのアプローチとは一線を画す考え方です。

――寄付を投資することでそんな使い方ができるなんて……。目からウロコが落ちる思いです。

中村 アキュメン・ファンドのことを初めて聞いたのは国連勤務時代でしたが、それは驚きました。そして、衝撃を受けました。このアプローチは途上国の貧困層向けのビジネスには、非常に適している、と。短期的な利益を目指しているだけでは生まれないであろうイノベーションが起こる可能性が生まれるからです

 実際に、第1回で紹介したソーラーライトを開発・販売するd.lightや、インドをベースに点滴灌漑キットを開発・販売するドリップテック(Driptech)もこのアキュメン・ファンドの出資を受けています。