安倍晋三首相とバラク・オバマ米大統領の日米首脳会談が行われた。安倍首相は、会談前夜にオバマ大統領を東京・銀座の高級すし店に招いて、非公式の夕食会を開いた。日米首脳の緊密さの演出で始まった首脳会談では、尖閣諸島を日米安全保障条約に基づく米国の防護義務対象に含めることで合意した。安倍首相は「満額回答だ」と会談の成果を強調した。
一方、環太平洋経済連携協定(TPP)を巡る日米協議では、実務者協議、甘利明TPP担当相とマイケル・フロマン米通商代表部(USTR)代表による閣僚協議がギリギリまで続けられた。だが、牛肉・豚肉の関税などで妥協点を見つけることができなかった。日米両政府は日米首脳会談の合意内容を盛り込んだ共同声明を発表したが、TPPについては閣僚協議を継続していくことになった。
「尖閣諸島は米国の防護義務対象」は
米国の「核心的利益」を守るため
安全保障に関しては、安倍政権にとって今回の首脳会談は決して難しい交渉ではなかった。オバマ大統領は、「尖閣諸島は米国の防護義務対象」であると言わざるをえない状況だったからだ。
オバマ大統領は、シリア、ウクライナ問題の対応で弱腰と批判され、国際社会で難しい立場にあった。シリア問題では、大統領は「化学兵器の使用がレッドライン(越えてはいけない一線)」だとアサド大統領を牽制し続けていた。そのため、実際にシリアが化学兵器を使用すると、軍事介入を決断せざるを得ない立場に追い込まれた。だが、これをアフガニスタン、イラクとの戦争長期化で厭戦気分が高まっていた米国民は支持しなかった。その上、米国と「特別な関係」の英国が、議会の否決によって軍事介入を断念せざるを得なくなった。
苦しい立場の米国に対して、ウラジーミル・プーチン露大統領が動いた。米国の軍事介入への各国の支持を阻むため、積極的に首脳会議を展開したのだ。また、アサド大統領に対して化学兵器廃棄案を提案して同意させ、化学兵器禁止条約(CWC)に加盟させた。そして、米国に対して、シリアが保有する化学兵器を国際管理下に置き廃棄する案を持ちかけて同意させたのである。これによって、国際社会でプーチン大統領が主導権を握り、逆にオバマ大統領の存在感が薄くなった。