サッカーワールドカップが12日に開幕した。日本代表の初戦、コートジボワール戦を備え、興奮で眠れない人も多いのではないか。

メディアの話題を独占するW杯の開幕を前に、週刊ダイヤモンドでは「MONEY FOOTBALL! 統計学が解き明かすサッカーの新時代」と題した特集を掲載。それに合わせ、ダイヤモンド・オンラインでは、Jリーグの強豪3クラブの社長に、経営の秘訣を聴くインタビューを掲載する。

第1回は、昨年のJリーグ・ディヴィジョン1の2位で、天皇杯覇者の横浜F・マリノス。5月に発表したイングランド・プレミアリーグの優勝クラブ、マンチェスター・シティFCを擁するグループとの資本提携が話題となっているが、その狙いは一体何なのか。改革の旗手である嘉悦朗社長に、直撃した。(聞き手/週刊ダイヤモンド編集部 森川 潤)

――まずお聴きしたいのは、英マンチェスター・シティを傘下に持つシティ・フットボール・グループ(CFG)とのパートナーシップです。

 CFGとのパートナーシップについて語るには、われわれがこの5年間、どういった改革をしてきたかを知っていただきたいのです。

かえつ・あきら
1979年、一橋大学商学部卒業後、日産自動車に入社。99年のカルロス・ゴーン社長就任後、本社移転プロジェクトなどのリーダーとして手腕を発揮し、09年に横浜F・マリノスの経営に就く。
Photo by Jun Morikawa

 私は1999年に、日産自動車の社長にカルロス・ゴーン氏が就任したとき、あるプロジェクトチームのリーダーとして、改革に取り組みました。そして、改革に区切りが付いた2009年に、マリノスの再建を託されました。

――経営改革でいうと、昨期は5期ぶりの営業黒字でしたね。

 5年間の改革の最大の目的は「持続可能な成長」を果たすことです。成果が出てきたことで、昨年は自力で黒字化を果たし、優勝争いもできました。私はこれを改革の「第1章」と位置づけています。

 この第1章では(親会社に頼らず)自力でどこまで収益を改善できるか、に挑戦してきました。昨期はかなりの集客もできましたし、そうした改革の上限値まで近づいたと思っています。

――改革では、どういったビジョンを描いているのですか。

 正直、私個人としては、将来像やビジョンを語りたいし、描きたいのですが、今、Jリーグという産業界では、それを必ずしも許さない状況にあります。

 というのも、産業基盤は構造的に不安定な部分がありますし、ビジョンを描いても“砂上の楼閣”になりかねない恐れがあるのです。

 なぜ基盤が不安定なのかと言いますと、Jリーグの20年間の拡大路線が、本当に速かったことにあると思います。この20年は、(バブル崩壊後に)日本の産業が伸び悩んだ期間でした。

 そんな中で、Jリーグだけは器が非常に拡大してきたので、いろんなところで、ひずみが出てきたのではないでしょうか。

  さらに(経営が悪化した企業はライセンスを得られない)「クラブライセンス制度」という新たな規制ができたことで、各クラブとも、見通しが混沌としてきました。そんな中では、確固たるビジョンを語れる状態ではないと思っています。

――すると、成長を安定軌道に乗せることが、最優先だと。

 経営を持続可能な成長に乗せてから、チーム作りのノウハウを築き上げることですよね。そこが今回のCFGとのパートナーシップにつながってきます。いわば、改革が「第2章」に入り始めたということです。

 われわれが目指すのは、いくら海が荒れていようと、このマリノスという船が難破しないような強い船に変えていくことです。船がタグボートに牽引されるようではいけない。きちんとした船を作ることが、私に与えられたミッションだと思っています。