古来、薔薇の香りほど人々を魅了してきた匂いはないだろう。世の権力者、女性たちはその力を自らのものにすべく薔薇の香りを好んでまとってきた。
先日、独立系・非営利の味覚・臭覚に関する基礎研究を行っている米国モネルセンターから、ユニークな報告が出された。曰く、「薔薇の匂いの存在によって、女性の魅力に対する評価が高まる」というのだ。
香水を例にするまでもなく、これまでの研究で快い匂いは人の魅力を引き立て、不快な匂いは魅力を減少させることが示されている。しかし、香りが「経験に基づく感情」に働きかけるのか、「理性的な認識力」に働きかけるのかは不明だった。
研究者らは18人(女性が12人、平均年齢25歳)の協力のもとで、8人の女性の顔写真を見せ、感情に訴える「魅力」と、理性的な判断プロセスを必要とする「年齢」について評価をしてもらった。顔写真を評価する際は、薔薇オイルと生臭い魚油を「快い~不快」の5段階でブレンドした5種類の香りのうち、一つを放出している。
その結果、快い匂いが漂っているほど顔写真を「魅力的である」と評価する一方で、シワやたるみといった年齢を暗示する情報に関しては、かなりシビアに評価していることが判明したのだ。つまり、高齢者はより高齢に、若者はより若く、といった具合に。
逆に、不快な匂いが放出されている時は、両者の年齢差が小さくなった。どうやら、快い匂いは老いや若さをより強調してしまうらしい。魅了されたからこそ、視覚的な情報を詳細に分析する心理が働くのだろう。研究者は「快い匂いは自然に備わった認識力を高めるようだ」とし、次は男性の顔写真で実験を行う予定だ。
欧米とは違い、日本の香水市場規模は化粧品市場の2~3%、340億円ほどに過ぎない。しかし最近は、加齢臭が気になる中高年男性の購入がじんわり増えている。ただ、今回の結果が示した限り、香水は相手を魅了する一方、より細かく観察・分析されるリスクを孕んでいるようだ。どうしますか? 香水、つけますか?
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)