「グローバル化」が日本企業の経営課題となってずいぶん月日が経った。成功する企業もあれば撤退する企業もある。グローバル化のための現実的なプロセスとはどんなものだろう。日本企業からキャリアをスタートし、さまざまな外資系企業を経て、現在NECとの合弁事業を通じて日本企業の変革をリードする留目真伸氏に聞いた。
グローバル企業の新しい潮流とは?
グローバル化をめざすのであれば、ゴール・イメージを持たなければなりません。グローバリゼーションはずいぶん前から世界共通の経営課題ですが、近年、急速に進展し、グローバル企業のオペレーションにおいては多様性のマネジメントがますます重要になってきています。
NECレノボ・ジャパングループ
コンシューマ事業統括
早稲田大学政治経済学部卒業。総合商社、外資系企業数社を経て、2006年レノボ入社。戦略・営業部門等を統括し旧IBMのPC事業のターンアラウンドを実現。2011年からは、NECパーソナルコンピュータ取締役を兼任。米国本社での勤務の後、2013年より日本でのNEC、レノボ両ブランドのコンシューマ事業を統括、国内トップシェアのPCメーカーの責任者を務める。GAISHIKEI LEADERSのオーガナイザーとしても活躍する。
市場規模においてもイノベーションの源泉としても先進国が圧倒的に強かった時代は過去のものになり、まずは新興国の市場規模が先進国を上回り、加えて新興国発のイノベーションが無視できないものになってきています。ここで重要なのは、新興国と一言で言っても、中国、インド、東南アジア、中南米、東欧、中近東、アフリカなどそれぞれの地域が独自の文化と市場特性を持っているということです。それが何を意味するか。
欧米先進国が市場の大半を占めていた時代と異なり、全世界で統一した製品ポートフォリオやオペレーションを通用させるのは不可能になっているということです。つまり、グローバル企業は、グローバルに統合・共通化して規模のメリットを出す部分と、ローカルにフレキシブルに対応して市場特性に応えていく部分とを高次元で両立するという非常に高度なマネジメント、いわば「グローカルなオペレーション」の実現が求められているのです。
そこで重要になるのが、偏見の無いフラットな視点で世界を見渡しオペレーションをデザインできる多様性です。そのベストプラクティスを見ると、多くのグローバル企業で本社所在地の国籍に固執せず、経営陣を多国籍化し、各地域のオペレーションに現地のマネジメント人材を登用した上で、各地域からのフィードバックを経営に反映させる仕組みが取り入れられています。
私が今働いているレノボはもとは中国の企業ですが、現在本社は米国ノースカロライナ州にあります。経営陣は欧米、アジアなどさまざまな国籍のメンバーで構成され、これがスケールでの強みを追求しながら同時に世界各拠点の地域特性に合う柔軟なマネジメントを可能にしています。後発でありながら先進国と新興国の両市場でシェアを拡大し、PC事業で世界第1位を獲得するに至った経営とは、そういうものなのです。
事業を拡大するためにはM&Aを積極的に行います。機能別・事業部別に整理された大きなグローバル規模の組織との統合の場合、多様性を保ちながら最大限の統合シナジーを獲得するということは大変困難なテーマです。したがって、我々経営陣は、その点に非常に配慮しています。
2011年のNECとの合弁事業がスタートする際、私は事業統合の責任者に任命されました。グローバル本社の各部門の役員と調整を図りつつ、機能別に統合レベルについて綿密なディスカッションを重ねた、最適なバランスの実現をめざしました。
例えば、調達部門については一気に統合してスケールメリットを最速で獲得、サービス部門については日本市場にあったサービス・レベルを維持することを最優先し、また、NECの強みである開発部門については、こちらも日本にあるThinkPadの研究開発チームと、どのように協力して、その強みをさらに磨き上げていくかなど、慎重に検討して統合プランを策定しました。
その結果、NECのブランドや日本市場に適したオペレーションを毀損することなく、統合シナジーにより競争力を高めることに成功し、NEC、レノボ両ブランドの日本市場でのシェア拡大を実現しています。