5レベル交渉力

 いよいよ本題に入りましょう。

 そもそも「交渉力」には、1冊の本になるほどたくさんのポイントがあります。そして、上手に「外国人と対等に交渉する」には、いくつかのレベルがあります。

 今回は基本中の基本を説明します。多くの人が、そんなことはできていると思われることでしょう。ところが、その基本を身に付けている人はまだまだ少ないのです。

 私がこれまでの経験から学んだ、交渉の5段階は次の通りです。

レベル1自分と同じ人間は1人もいないと自覚する

 過去の経験にせよ、そこで培われた価値観にせよ、家族や生活環境にせよ、実は日本人同士であっても、自分と「まったく同じ人」など、この世にはいません。ましてや、外国人ならなおさらです。つまり、交渉する相手は、自分とは「必ず違う」ということを自覚すること。まずはここからです。

レベル2相手の話をしっかり聞き、考え方を理解する

 相手が自分とはまったく違う考え方・価値観を持っている人間だと理解できれば、次にやるべきは、自分の考えを「これしかない」と決めつけず、「他の見方・考え方もあって当然だ」と考えて、交渉相手の話をしっかり聞くことです。自分と相手の考え方が大きく違う場合は、「よく分からないのでもう少し詳しく説明してほしい」と申し出てまったく問題ありません。外国人は、我々日本人の考え方・価値観がユニークであることを承知していますから、理解を深めるために説明をするのも、それを求めるのも極めて当然のことなのです。

 説明を求めるのは申し訳ないなどと遠慮して、理解しないまま議論を進めてはいけません。後になって実は大事なポイントを理解していなかったことが分かると相手は混乱します。「空気が読めず」(あるいは、あえて空気を読まずといったほうがよいかもしれません)に、質問することは大歓迎なのです。

 説明をしっかり聞くことで、どのように考え、どういう点を重視しているかなど、相手の思考の輪郭が見えてきます。コミュニケーションは情報の送り手と受け手の双方向の作業ですから、相手が重視していることに明確な回答をしなければ、交渉はまとまりません。

レベル3できるだけ論理的に説明する

 論理的な説明の代表といえば、三段論法でしょう。「AならばB、BならばC、したがってAならばC」というあれです。A、B、Cというパーツ(内容)がつながっていて無駄がなく、流れも理解しやすい。「受け手が察すること」は期待できないわけですから、冗長に見えてもつながりをスキップせずに、1つずつ順を追って説明することが肝要です。

 また日本のプレゼンテーションでは、本論と関係が弱くても面白い情報があると途中に入れる傾向がありますが、注意したほうがよいでしょう。外国人がその「面白い話」を喜ぶことはほぼありません。むしろ混乱させるだけです。本論とは論理的につながらないけれど、捨てるには惜しい参考資料・参考情報は、最後に補足資料として加えます。

レベル4ストーリーを立てて、自分の考えをはっきりと説明する

「ストーリー立てて説明する」とはどういうことでしょうか?

 一見、3の論理的説明と同じように思われるかもしれませんが、これらは微妙に異なります。私が言う「ストーリーを立てて説明する」は、「この件について、自分はこう思う」という自分の考えをはっきり述べた上で、なぜそう考えたのか、なぜその考えが正しいと思うかを説明することに、相手に提示するすべての資料・論理を収斂させていくことです。

 一つひとつの要素が途切れることなくつながっていたとしても、「自分はこうしたい」という主張が不明瞭なものや、資料や内容は盛りだくさんなのに主張との関連が希薄なもの、さらに、相手が納得するに足る主張(議論)の前提の説明がなされていないものは、「ストーリー性が弱い(ない)」プレゼンテーションであり、相手が納得してくれる可能性は大変低くなります。前提となる「起」も自分の主張である「結」もきちんと説明されていて、この2つを結ぶストーリーが展開されていることが必要です。

 日本の会議で配られる資料を見ると、作成者(担当者)の主張が不明確なのに、参考情報ばかりが延々と続くものが多いようです。ある意味それは、結論を会議での議論の成り行きに任せるということになります。「空気を読む」ことが当然とされる組織では、このコミュニケーション手法は一定の効果がありますが、価値観やライススタイルが大きく異なる海外の人たちとのコミュニケーションで、これは無意味です。ですから、間違えようがないぐらいはっきりと「自分の考え」を説明したほうがよいのです。

レベル5意味がぶれない言葉を選び、分かりやすい事例を出す

 自分の考えを説明する際には、できる限り多義的な意味を持たない、誰が聞いても同じ意味に解釈できる言葉を選びます。「共通言語」で議論する、ということです。また、考え方がまったく違うという前提に立てば、万国共通の分かりやすい事例を活用するのがよいでしょう。共通するもの・コトを事例に説明することで、理解度は確実に増します。

 これまで述べてきたことは、いずれも簡単なことです。ただ、我々日本人同士のコミュニケーションがあまりに洗練されすぎていて、多くの日本人がコミュニケーションの大前提を忘れてしまっているのです。

 これからは、どんな業種・職種についていようとも、海外の人たちと交渉する機会が増えていくことでしょう。その際、臆せず、気張らず、スマートに対等に交渉できる日本人が増えることを切に望んでいます。そしてその力になりたいと考えています。今回お伝えしたコツを念頭において交渉に臨めば、コミュニケーションがかなり改善できることは保証します。

 基礎的なコツはわかったから、応用編を教えてくれって?

 はい、それはまたの機会に。

GAISHIKEI LEADERS主催 Meet the Leaders
【スピーカー】20世紀フォックス ホームエンターテイメント ジャパン 代表取締役社長 土合朋宏氏

■日時 2014年9月12日(金) 19:00開始 (受付開始18:30~)
■場所 Steelcase Tokyo Office /
東京都港区南麻布5−2−32 KOWA HIROOビル4F
■会費 5千円 (懇親会での軽食・ドリンク込)
※歓談の場が用意されています。

※先着55名となっております。お申し込みはどうぞお早めに。